『モーリタニアン 黒塗りの記録』アメリカ政府の隠ぺいに立ち向かう人権弁護士をジョディ・フォスターが熱演!!
#映画
911テロによって変わってしまったアメリカ国民の意識
911テロがアメリカ国民にもたらした悲しみは、人命や物的な損害だけではない。アメリカ国民の誰もの心に大きな傷とトラウマを負わせてしまった。
悲しみや不安というものは、時に人々を間違った意識に向かわせてしまう。イスラム教徒への偏見や間違った“正義”が招いた2次被害や、今も残る人種に対しての不信感など、現在も911テロと戦っている人々は多いのだ。
イスラム教徒であるかどうかに関わらず、外見が似ているからということで、インド人やパキスタン人も同様に見られ、偏見の目で見られてきた。女性がヒジャブ(イスラム教の女性が頭や身体を隠すための布)を着用しているというだけで暴行にあうこともあり、イスラム教徒は身の安全を守るために、信仰よりも命を選択することを強いられたのだ。
その様子は、カラン・ジョーハル制作のインド映画『マイネーム・イズ・ハーン』(2010)でも色濃く描かれていた。
他にも『グアンタナモ、僕達が見た真実』(06)のように直接的なものもあれば、ジョディの主演サスペンス・アクション映画『フライトプラン』(05)でも、アラブ系の乗客が犯人だと疑われるシーンがあった。
その他にも、ドラマや映画においてたびたび描かれてきたが、その中でも人権を無視した負の象徴が、キューバのグアンタナモ米軍基地内に設置されている「グアンタナモ収容所」である。911テロ以降、アメリカがアルカイダやテロリストを収容するために設けられ、約780人が東南アジア、中東、アフリカなどから連行され、司法手続きなしに厳しい尋問や拷問が行われており、その中には子どももいた。
収容所の存在、収容所内での尋問の酷さはブッシュ政権の負の遺産として、アメリカが隠したい事実。2009年にはオバマ政権に代わり、トランプ、バイデンと大統領が何度も交代しているが、現在も閉鎖には至っていない。
2015年、その実態を事細かに書き綴ったが、アメリカ政府による検閲でほとんどが黒塗りにされたモハメドゥ・ウルド・スラヒによる手記が出版された。この手記を元に、モハメドゥの受けた人権無視な扱いの数々や、その周りで奮闘した者、もしくは隠ぺいしようとした者を描いたのが『モーリタニアン 黒塗りの記録』で、濃厚な社会派作品となっている。
今作がより特徴的なのは、第34回東京国際映画祭で先行上映される『パワー・オブ・ザ・ドッグ』やマーベルの新作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』などの話題作に出演する俳優、ベネディクト・カンバーバッチが自身の制作会社サニーマーチを通してプロデューサーを務め、映画化に乗り出し、イギリスのテレビ局BBCも参加した作品という点である。
アメリカという国を少し引いた目線から見ることで、あくまで中立的な描き方をしているのだ。
俯瞰で見るからこそ、世界に伝わったアメリカ政府の間違った“正義”を冷静に捉えることに成功しているともいえるだろう。
ジョディの演じるナンシー・ホランダーは、人権弁護士でありながら、100%モハメドゥを信じきれていないし、ベネディクトが演じるスチュワート中佐
もパイロットの親友がハイジャックされた機に搭乗していたことで、テロに対しての怒りと悲しみを抱えた人物である。
この2人は真実を求めてぶつかり合うことになるが、真実を知っていくうちに、次第に感情が変化していく。両極端な状況におかれる2人の人物が同じ方向に向かっていくのも、俯瞰で見たからこそ描けるものだ。
テロリストは許せないが、見た目が似ているから、宗教が同じだからといって、無罪の人を罰することなどできない。そんなあたり前のことを見失わせてしまったのも、911テロが及ぼした被害のひとつである。
『モーリタニアン 黒塗りの記録』
© 2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.
監督:ケヴィン・マクドナルド
出演:ジョディ・フォスター ベネディクト・カンバ―バッチ タハール・ラヒム シャイリーン・ウッドリー ザッカリー・リーヴァイ
原作:モハメドゥ・ウルド・スラヒ『グアンタナモ収容所 地獄からの手記』(河出書房新社刊)
2021年/2021年/イギリス/英語・アラビア語・フランス語/ドルビーデジタル/カラー/スコープ/129分//原題:THE MAURITANIAN/G/字幕翻訳:櫻田美樹
配給:キノフィルムズ 提供:木下グルー
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