伊丹十三が不気味に卵の黄身をチュウチュウ…奇妙な演出に釘付け「家族ゲーム」
#松田優作
家庭教師が食卓をめちゃくちゃに! 侵略者による破壊で家族は再生したのか?
そんなバラバラな家族のもとに、台風のようにやってくるのが家庭教師の吉本。吉本を演じる松田優作さんがまぁ凄い! 画面に現れたら食い入るように見てしまう、あの圧倒的な存在感の正体は一体なんでしょうか。
沼田家の元へ現れる風変わりな男を演じるにあたって、もっと派手に存在感を示すような、別のアプローチもあると思うんです。ですがここで松田勇作さんが選んだのは、静かなる狂気。飄々とした様子で、声を荒らげたり表情を変えることなく、誰に対しても常に無愛想に話すので、何を考えているのか全く読めない。時に手を挙げ茂之をビンタする機敏さ。無表情での一瞬の暴力なので、「ひどい! 暴力振るうなんて!」と考える暇もなく、衝撃にただ驚く感情だけ生じます。そんな吉本を、周囲の人々も変人と思っていない様子で普通に振る舞っていて、確かに社会に溶け込んでいて。それがまたこの吉本という人物を際立たせています。変人を演じる場合、不敵な笑みを浮かべるだとか、変わった容姿をしていたりだとか、そういった表現で狂気を示しているキャラクターをよく見かけますが、この松田優作さん演じる変人が、最も恐ろしい変人なのではないでしょうか。しかしこのタイプの変人を演じきれる役者はきっと多くいないですし、この松田優作さんの右に出るものはきっといません。
片手に植物図鑑を持ち、船に乗り海の上から沼田家にやってくる吉本ですがこれは、ゴジラが日本に上陸する場面をイメージしたそう。確かにそのイメージがとても当てはまっていて、吉本ゴジラが沼田家へ足を踏み入れどんどん破壊していくかのよう。しかしゴジラと言っても派手に暴れまわるわけではなく、粛々と心に侵略していくような印象を受けます。
茂之の合格祝いの食卓を映した長回しシーンはもう圧巻。いつもの長テーブルに家族の真ん中に座った吉田は、少しずつ料理をぶちまけ食卓をグシャグシャに汚し、終いには家族全員に暴力を振るってテーブルごとひっくり返す。そしてコートをはためかせ悠々と去っていく。それはもうカオス状態。
吉田が去った後、床に散らばった料理や食器の破片を片付ける様子は、初めて見る家族揃っての共同作業。ラストシーン、家にヘリコプターの音が鳴り響く中、眠る家族の様子で映画が終わる。ピリピリ鳴っててうるさかった家はどうやら静かになったようですが、さて、この家族は一体どうなったのか……何度観ても答えは分からぬままです。
茂之の成績が上がったとか受験合格できたかとか、そのような物語の展開よりも、松田優作さん演じる吉田が何を仕出かすかと釘付けになり、校庭を引きの画で撮るカットや、背景にジェットコースターが映っている意味は何だろうとか、何故父親がいつも飲んでいる豆乳をここで吉田が飲むのだろうかとか、そういった演出の奇妙さに目がいってしまう。これもまたひとつの視聴者を引き込む演出だと感じました。誰も真似できない型破りなアイディアで、視聴者にインパクトを残す森田監督。恐るべし。是非この奇妙な世界観をお楽しみください!
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