マンボウやしろ、若手芸人時代の13畳ワンルームとドミノ・ピザの記憶~ドラマ『お耳に合いましたら。』おさらいインタビュー
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「ちょっとやりすぎ?」というほど“外で食べる”体験を魅力的に描いたワケ
――『お耳』第1話(7月9日放送回『パーソナリティーはじめました』)の舞台は松屋でしたが、そこで主人公・美園が語る牛めしを初めて食べたときの衝撃と感動というのも、やしろさんご自身の実体験がベースになっているのでしょうか?
やしろ:そうなんです。僕は子どもの頃に初めて松屋の牛めしを食べて以来、すっかり気に入ってしまったんですね。でも実家は千葉の田舎で、当時は近所にチェーン店はなかったので、東京の歯医者に行くたびに親が「頑張ったご褒美」として牛めしを買ってくれて。その思い出もあって、牛めしは僕にとって親とのつながりがイメージされるチェンメシだったので、美園にも牛めしを食べながら母親とのエピソードを語ってもらったんです。
――子どもの頃に「親とのつながり」をもたらした牛めしは、その後、大人になったやしろさんにとってどんなチェンメシになっていったのでしょうか。
やしろ:やっぱり牛めしって美味しいだけじゃなく、安くて24時間食べられるところも魅力だと思うんです。若手芸人時代は渋谷の劇場(渋谷公園通り劇場、1998年閉館)で朝まで稽古をするとき、休憩時間によく仲間と食べに行って、ネタについて「ウケた、ウケない」みたいな話をよくしてましたね。そういう意味で僕にとって牛めしは、若手時代を記憶する味にもなっています。こうして年を取るごとにエピソードが更新されていくというのも、幅広い層にとって身近なチェンメシならではの体験ですよね。なので、『お耳』第2話(7月16日放送回『マイクがなきゃ始まらない』)では、これまた身近なチェーン店の餃子の王将にまつわる美園の学生時代と現在のエピソードを描いたりもしました。
――なるほど。主人公・美園を演じた伊藤万理華さんの愛らしいコメディエンヌっぷりも、本作において欠かすことのできない魅力でした。やしろさんの目に伊藤さんはどのように映りましたか?
やしろ:もともと僕はアイドルにうとくて。伊藤さんを初めて知ったタイミングも、『お耳』の撮影が始まる前に「この方が主演をやります」って動画を見せてもらった時のことだったんですね。それは伊藤さんが乃木坂46を卒業する直前に発表した『はじまりか、』という作品だったんですけど、長回しのカメラを前に道を歩きながら踊っていらっしゃる姿がとても素晴らしくて。どこかユーモアも感じましたし、しなやかな印象も強く、そういったところから一気に美園のイメージがブワーッと膨らんでいきました。
僕の書く脚本って、セリフの主語や述語が割とデタラメに入り乱れているので、よく「覚えづらくて、話しづらい」と言われてしまうのですが(笑)、『お耳』第1話の撮影後に監督が「伊藤さんは食べる演技をしながらでも、何の違和感もなくセリフを話していた」と言っていて、実際にオンエアを確認したら本当にその通りだったので、脚本を自分のモノにする能力が高い伊藤さんに主演を務めていただいて、とてもうれしく思いましたね。
――大好きなチェンメシに対する愛情を他者と共有することで成長していく美園の姿を、伊藤さんが見事に演じられていたからこそ、『お耳』が視聴者にとってより共感できる作品になったのだと思います。そして美園を通じて伝えられるチェンメシの普遍的な魅力というのは、脚本を手がけられたやしろさんご自身が日頃から感じていたものだったと。
やしろ:そうですね。そもそもこのドラマのお話をいただいた時点で、チェンメシがテーマの作品になることは既に決まっていたんですが、すぐに「これは書けそうだな」って感じたんです。というのも僕自身、一人暮らしをしていて、自炊をするとなると時間もかかるし、材料を余らせないように買い物をするのもなかなか難しい。メシを用意する大変さを実感しているからこそ、例えばオリジン弁当で注文して店内で待ちながら厨房で調理している店員さんを見たときに、「自分のためにメシを作ってくれる人がいる!」って心からありがたみを感じますよね。そういう気持ちが自分のなかに昔からずっとあったので、チェンメシというテーマもすんなりと受け入れることができました。
――作中にたびたび登場する「さすがチェンメシ、頭上がらないです!」という美園のセリフには、飲食店に対するそういった感謝の気持ちが込められていたんですね。
やしろ:はい。特にコロナの感染拡大後、生活が一変するなかで飲食店を営んでいる知り合いと連絡をとったりしながら、「一生懸命に試行錯誤はしているけどなかなかお金が回らない」という話をよく聞いていたんですよね。あとは、僕がやっているラジオ(「Skyrocket Company」TOKYO FM)にも、いろんな職業の方々から「従業員の給料を確保するのが難しい」「業者への補償がない」というような、やりきれない想いが綴られたお便りを本当にたくさん、いただいていたんです。僕自身、20時に生放送が終わってラジオの放送局を出ると、今まではお店の灯りで明るかった街がすっかり真っ暗になっていたりして、今までどれほど飲食店に助けられていたんだろうということを再確認させられもしました。
コロナ禍で放送されたこの『お耳』は、そういった外食を取り巻く大きな変化や飲食店へのありがたみを、僕を含め作り手全員が共有しながら取りかかっていた作品でもあります。なので「ちょっとやりすぎかな?」というほど“外で食べる”体験を魅力的に描いた『お耳』を通じて、「いつかまた皆で外食できる日がきたらいいな」という希望が少しでも届けられたらと思ったんです。
マンボウやしろ(まんぼう・やしろ)
千葉県出身、1976年7月19日生まれ。カリカとしての活動。2011年にコンビを解散し、マンボウやしろと改名。 2016年に芸人を引退した後、演出家、脚本家、ラジオパーソナリティとして幅広く活躍中。
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