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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > V6の“相田みつを”的リリックと6人の親和性

V6「雨」と「家族」が示した“役者”としての底力──KOHHの“相田みつを”的リリックと6人の親和性

V6が魅せた「声の演技力」

小鉄 「声の演技力」については、KOHHの「Living Legend」という曲なんかが顕著で、絞り出すような、焦燥感に満ち満ちた声で“I wanna be a living legend”というフレーズを20回近く繰り返して、フロウも基本的にずっと同じなんですけど、とにかく歌い方の気迫、途中で一度怒りが冷めるような歌いまわしのコントラストで、最後まで一気に聴かせてしまう。

「歌は演技力だ」とか、カラオケ教室なんかでも言われますよね。歌詞が描く世界観、その中に含まれる物語と感情を、音程やリズム感の正確さからさらに一歩進んだ地点の「声」で表現する能力、そういう意味だと自分は思うんですが……展開がごく少ない、シンプルなフレーズだからこそ、そういう「声」の表現、歌の演技力が浮き彫りになるんじゃないかと。

 その点で「雨」は「Living Legend」と曲調は正反対ですが「雨、雨、振れ……」という、本当に全く飾り気のないフレーズを繰り返し繰り返し歌ってますが、それ故にV6のメンバーらの「声」そのものがこちらに響いてくる。単なるリフレインではなく、さまざまな感情が連なるように、同じフレーズを折り重ねてゆく──もちろん、これにグッとくるのは、“グループが長い歴史をここで終える”という背景も込みで我々は聴いているから、というのもありますが、そういう歌詞の外にあるものも、ひとつのストーリーとして歌の中で演じ切ってると思うんです。KOHHの声とキャラクターで成り立ってたはずの世界観を、V6がこれまで培ってきたエンターテイナーとしての表現力によって、こういう形で演じるとは!という衝撃を受けました。

──V6は全員役者としても活動していて、中には舞台やミュージカルの分野を主戦場にするメンバーもいますから、意識しなくともそもそも彼らにとって「歌」や「歌詞」と「芝居」がシームレスな位置にあるのかもしれないですよね。

小鉄 なるほど! 舞台で培った力があるんですね。で、今回のアルバム『STEP』に収録されたKOHH提供のもう一曲「家族」も、三連符のメロディは非常にシンプルで、これぞKOHHって感じのシンプルな節回しがV6の声色で歌われる新鮮さ、とりわけ前半の森田剛さんのファルセットがぐっときますね。自分は昨今の、キャッチコピーのように言われる“絆” “家族愛”と言った言葉に、ある種の違和感というか押しつけがましさみたいなものを感じてしまう性分なんですが、「血のつながり関係なく 俺たち家族」というくだりを考えると、ギリギリ違和感よりしみじみした気持ちが勝つような…KOHHの魅力はそういうギリギリ感が常にあるので。

──V6って世代的なものもあるのかもしれないのですが、かなりシャイな部分も大きくて、あまりこう「メンバーは家族のような存在です」とか表立って言うタイプじゃないんですよね。例えばK-POPのアイドルなんかは、結構これを言うんですよ。「僕たちは家族です」って言ってはばからない。でもV6は年代もバラバラで、ソロ活動も活発だから、仲は良さそうでしたけど「メンバー同士の絆を売りにしている」という感じが若干薄めで、それよりもストイックにライブの時は一致団結して、それ以外は個人個人の力でクールに立っているようなイメージだったんです。だから最後に「血のつながりは関係なく家族」というフレーズの曲が出てくるとは思わなくて……ぐっときてしまいましたね。

小鉄 なるほど! 確かにV6って、別に不仲とかじゃないんだろうけど、あんまりベタベタしないイメージのグループでしたが、そういうことなんですね。それを最後の最後で、こういうふうに、一体感、連帯感を「家族」になぞらえる歌を書いたのがKOHHだった、っていうのがいいですね。KOHHのストレートな作風・歌詞だから自然に聴けるというか、他の人だったらもっと「絆!友情!仲間最高!」みたいな、ベタベタした印象の曲になってたのかも。

 V6それぞれの今後の展望みたいなものは、どんな感じなんでしょうか?そもそも、森田剛さんが俳優の道を志すべく、解散に至ったという話くらいは自分も聞いてはいるんですけど…。

──個人個人はこれからも今と変わらず俳優やバラエティ番組などで活動していくのだと思います。音楽的な話でいうと、年上3人は今後も20th century(トニセン)として続けていきそうです。彼らも森山直太朗やKIRINJIの堀込高樹に楽曲提供を受けてきた歴史があって、独自の路線を歩んでいるので、トニセンとして音楽活動を活発化させてほしいところ。一方で、Coming Century(カミセン)の3人(森田剛、三宅健、岡田准一)の音楽活動はV6としてが最後という可能性もありますね。

小鉄 ああ、そうなんですね~……。自分は結構、俳優の歌手活動、俳優と歌手の二足わらじ、みたいな人の考え方というか、両方の仕事がフィードバックしてる状況に魅力を感じてまして。松田優作さんや萩原健一さんの歌とか、決して歌唱力が高いわけじゃないけど聴いてしまう。今も活躍してる人ですと、研ナオコさんとか水谷豊さんとか、シブい俳優さんの味のある歌だったり……。あとピエール瀧さんは電気グルーヴとして歌を録音する時、「この曲は座って歌った方がいい」みたいなニュアンスを自分で判断するらしいんですが、それは俳優業で培った経験が影響してるらしいんです。そういえばV6的にピエール瀧さんと言えば『学校へ行こう!』の「恋の400Mカレー」ですよね(笑)。

 まあ、それはそれとして、最近だとドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ)の主題歌「Presence」はさまざまなラッパーのリミックスが話題になりましたが、本編にも出演してた東京03の角田晃広さんがラップしてるバージョンが特に特徴的でしたね。やっぱりラッパーとは発声とかの考え方が違うなという感じで、個人的に数あるバージョンの中で一番繰り返し聴きました。だから、俳優としての道を進みながら、それと並行して、あるいは数年に一度でも、音楽活動を行ってくれたら面白そうだな~とか勝手に思っちゃいますね。その時はどんなプロデューサーやどんなミュージシャンが関わってくるのか、楽しみです。

小鉄昇一郎(トラックメイカー・ライター)

1990年生まれ。香川県在住。トラックメイカーとしてラッパーやCM音楽などに多数楽曲提供。ソロ作品として『I MISS YOU』『STUDIO MAV THEME』tofubeatsによるレーベルHIHATTから『Ge’ Down E.P.』などをリリースしている。また、ライターとしてヒップホップや電子音楽、インターネット・カルチャーや西日本のローカル・シーンなどをテーマに執筆活動も行なっており、Quick Japan、ミュージック・マガジン、ユリイカなどの雑誌/メディアに寄稿している。

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こてつしょういちろう

最終更新:2021/10/29 18:00
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