V6「雨」と「家族」が示した“役者”としての底力──KOHHの“相田みつを”的リリックと6人の親和性
#音楽 #ジャニーズ #V6 #相田みつを
1995年「MUSIC FOR THE PEOPLE」でデビューしたV6が、この秋26年の活動に終止符を打つ。小室哲哉ブームに沸き立つエイベックスが得意としていたユーロビートというジャンルでデビューしたV6は、その後も音楽とライブにこだわり続け、ジャニーズの音楽性の幅を広げた功労者だろう。
そんなV6の14枚目にして最後のオリジナルアルバム『STEP』には、これまで音楽的な冒険を続けた彼らの最後の挑戦が詰め込まれている。中でもアルバムのリード曲「雨」と、森田剛プロデュースの「家族」は、ヒップホップMC・KOHHが本名の「千葉雄喜」名義で歌詞を提供したことでも話題になった。
KOHHが持つ独特の歌詞と世界観、そこに26年もの間アイドルとして第一線を走り続けてきたV6の円熟が混じり合い、高い完成度の楽曲になった「雨」と「家族」について、トラックメイカーで著述家の小鉄昇一郎氏に分析してもらった。
──今回はV6の「雨」と「家族」について小鉄さんに分析をお願いしたいのですが、まず最初にV6についてはどんな印象をお持ちですか?
小鉄昇一郎氏(以下、小鉄) 恥ずかしながら、V6については『学校へ行こう!』(TBS系)は世代で楽しく観てましたが、楽曲や活動については本当に有名な曲しか自分は知らなくて……。それでも、解散の報は驚いたし、そして最後のアルバムにKOHHが本名の「千葉雄喜」として楽曲提供、というのもサプライズでした。
KOHHは、2010年以降の、日本のヒップホップでは群を抜いてカリスマ性のある、トップアーティストとして君臨しているラッパーですからね。これから来る、今まさに旬なアーティスト……というよりは、すでにシーンの内外に大きく名を刻んだ存在だと思います。KOHHは東京・北区王子の出身で、団地での生活や自身の家庭環境・出自、地元の仲間らとの日々を、凄くシンプルな歌詞でラップにするんです。本国アメリカのヒップホップでは、この10年でもはやスタンダードとなっている「トラップ」というスタイルがあって、それにごく自然なやり方で日本語でラップを乗せてるんですね。ラッパーとしてその点がまず、凄くエポックメイキングでして……。
それから、本人のカリスマ性。ごく自然体な、ユーモラスで気のいいあんちゃんっぽさと、何か人の心をザワザワさせる目力、緊張感みたいなオーラを常に出してる。自分は2015年に一度だけ、地元のライブハウスでKOHHのライブを観ることができたんです。革ジャンを着て、身ひとつでゆらりとステージに降りてきて、ロックスター然としたパフォーマンスを最初から最後まで貫いていて、めちゃくちゃシビれましたね~。その翌年には宇多田ヒカルの復帰作『Fantome』収録の「忘却」で客演したり、ヒップホップ・シーンに留まらないさらなる飛躍が始まったので、いいタイミングで観れたな~と思います。
──先日リリースされたベストアルバム『Very6 BEST』にはKREVAプロデュースの「クリア」という曲が収録されています。もっと遡ると、98年リリースのミニアルバム『SUPER HEROES』では森田剛のソロ曲のプロデュースをDEV LARGEが手がけたんですよね。ヒップホップというジャンルがV6の音楽性の大事な部分を担ってきたのは間違いなくて、その集大成という意味でもKOHHの起用には大きな意味があったのかなと。
あと著名アーティストがジャニーズに楽曲提供する例は昔からありましたし、最近でもKing Gnuの常田大希がSixTONES、Creepy Nutsが木村拓哉にと盛んに行われているのですが、今回のKOHHがV6に楽曲提供というのは、ちょっとこれらとは毛色が違うように感じるんですが。
小鉄 はい、KREVA・DEV LARGE両氏なんかはラッパーでもあるけど、プロデューサーとしての側面ももともと持ってる人なんですよね。トラックメイクやリミックスも多数行っていて、舞台には出てこない裏方仕事的なものもやれる。ですが、KOHHに関しては本当にパフォーマーというか……宇多田ヒカルやTaka(One Ok Rock)など、著名アーティストとのコラボレーションは過去にもあったんですが、それもラッパーとして共演シンガーの横に並び立ってる、という構図だったんで、裏方っていう感じでは全くなかったんです。
──今回「雨」「家族」のクレジットを見ると本名の千葉雄喜名義ですよね。KOHHとして2020年に引退宣言をされていることと関係あるのかなと邪推したりもしたんですが……。
小鉄 どうなんでしょうか?KOHHの動向は本当に予想がつかなくて、引退宣言も新プロジェクトの予告か何かでは?なんて思ってたんですけど、こうして本名での楽曲提供となると、KOHHという表舞台に立つアーティストとしての活動はやめて、千葉雄喜として裏方にまわるという意味だったのかもな~とも思いましたね。
KOHHの作風の話に戻りますが、KOHHのシンプルな…ある種「相田みつを」的な通俗性すら感じさせる、子どもでも理解できるくらいシンプルなリリック(大坂なおみさんは日本のヒップホップも聴いていて、あるニュースのインタビューでKOHHの「やりたくないことやってるヒマはねえ」(It G Ma)というリリックを引用したことがあります)は、KOHHがラップするからこそ映えるものだと思うんです。それをV6がやるとなると、ちょっと不安すら感じたんですが…MVが公開されたので聴いてみたら、これは映像込みで、全く予想できなかったスゴい着地点だな~と圧倒されました!
──「相田みつを的」って、まさにですね。雨をモチーフにしたJ-POPは数えきれないほどありますが、KOHHの歌詞は本当に最低限の単語だけがポツポツと降ってくるようで、それこそ雨粒のような、静かだけど強烈な印象を受けました。
小鉄 本来ラップって、さまざまなボギャブラリーを用いて、フロウ(ラップのメロディ、歌い回し)を使い分け、情報量たっぷりに歌い上げる──というのが「良くできたラップ」とされてると思うんです。でも、トラップになるとちょっと違っていて。トラップのラップは、ごく単純なフレーズを一本調子で繰り返すものが多いんです。歌詞の内容も、パーティやセックスに明け暮れるだけの話だったり、着てるブランドの自慢とか、享楽的なものが多い。逆にひたすら鬱々とした破滅的な曲もありますが。
それ故に、ラップ・ファンの中には「トラップは歌詞に深みがなく、テクニックも皆無、繰り返しが多いから聴いていてすぐ飽きる」という批判が、アメリカでも日本でも一定数つねにありまして……。では、同じフレーズを繰り返すラップを、どうやって最後まで聴かせるか?その解答のひとつとして、声色のバリエーション、感情表現としての声──そういった「声の演技力」で聴かせる、という手法があると思うんです。
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