『MONOS 猿と呼ばれし者たち』少年少女の残酷サバイバルがリアルな理由
#MONOS 猿と呼ばれし者たち
「まるでドキュメンタリー」のようなリアリティを作り出せた理由
本作の最大の魅力と言って差し支えないのは、「ドキュメンタリーと見紛うほどにリアル」であることだ。劇中の少年少女たちの演技は演技に見えないほどに自然であり、過酷な土地は美しいと同時に脅威そのものとして映る。
オーディションで選ばれたキャストの多くは演技未経験の少年少女であり、彼らは実際にアンデス山脈・高地でのキャンプに参加し、数週間にわたって午前に即興や演技の練習を行い、午後には武器の持ち方や隊列の組み方などの軍事訓練を受け、宙返りや射撃なども本物の兵士と同様に学んでいたそうだ。さらには、実際のゲリラ組織「FARC」の元戦闘員も出演している。
しかも、未開のジャングルでも4週間の撮影が行われており、ランデス監督の盲腸のための一時的な離脱や、豪雨により転がり落ちてきた樹木があわや衝突しかけるなどのトラブルもあって、キャストとスタッフは肉体的にも精神的にも限界に達していたこともあったいう。
本作が「まるでドキュメンタリー」と思うまでリアルに見えるのは、そうしたキャストたちへの本格的な訓練および指導と、大自然の中でサバイバルをしながらの過酷な撮影を「実際にやっている」ことに他ならない。『キングス・オブ・サマー』(2013)のモイセス・アリアスが独裁的な一面をみせていく少年を、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)のジュリアンヌ・ニコルソンが人質の女性を演じているなどプロの俳優による力もあるが、それ以外の演技未経験のキャストに「本物の少年少女の兵士としか思えない」説得力を持たせているのは脅威的だ。
丹念に描かれる「外界から隔絶された思春期の少年少女」の心理
本作でさらに重要なのは、思春期の少年少女の心理が丹念に描かれていることだ。ランデス監督は思春期について「自分が何者で、何者になりたいのかを理解するために戦い始める時期」「それは仲間が欲しいという気持ちと同じくらい、ひとりでいたいという気持ちの間で揺れ動く人生の段階」などと語っており、それらが外界から隔絶された世界でさらに鮮烈に浮かび上がる物語にもなっている。
彼らは誤って射殺してしまった牛をめぐって対立をしたり、それぞれが人質の女性への複雑な想いを抱えたり、はたまた楽しそうにじゃれあったり恋心を募らせたりもする。深刻な内戦が背景にあり、人質の見張りという異様な任務が与えられているが、「普通の子ども」に見える時もある。だからこそ、後半で起こる過酷な出来事がより胸に迫るし、同時に彼らの幸せを心から願いたくなるほどの思い入れもできる。そのような感情移入ができる「人間」でもある彼らが、強力な暴力に飲み込まれていってしまうことが哀しい。
少年少女のキャラクターの中でも注目なのは、リーダー格だった少年の弟分的な存在の、泣き虫な「ランボー」だ。何しろ、彼(彼女)はジェンダーに囚われない、中性的だからこその魅力がある。演じていたのは顔立ちや身のこなしそのものが中性的で、深い倫理観を持っていたためにランデス監督が見出した少女であり、物語の中の言語や会話では性別は重要ではなかったため、はっきりとさせなかったのだという。その言動が多くの示唆に富んでいることもあり、もっとも思い入れができるキャラクターになることだろう。
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