『MONOS 猿と呼ばれし者たち』少年少女の残酷サバイバルがリアルな理由
#MONOS 猿と呼ばれし者たち
2021年10月30日より、映画『MONOS 猿と呼ばれし者たち』が公開されている。タイトルやポスタービジュアルからはどういう作品であるかの想像はつきにくいとは思うが、まずは世界中から賞賛の声が相次いでいることを記しておこう。
サンダンス映画祭ワールド・シネマ・ドラマ部門の審査員特別賞をはじめ、世界各国の映画祭で63部門にノミネートし、そのうち30部門で受賞。イギリスの映画雑誌「SCREEN DAILY」では2019年ベスト映画で総合1位、ギレルモ・デル・トロなど著名な映画監督からも絶賛され、第92回アカデミー賞では国際長編映画賞のコロンビア代表作品にも選出されているのだ。
本編は説明がほとんどなく、R15+指定相当の残酷描写もあるので、ある程度は観る人を選ぶだろう。だが、作品としてのレベルは高く、一定以上のエンターテインメント性もあり、後述する理由で(上映館はごくわずかだが)映画館でこそ「体感」するべき内容であると断言する。以下より、特徴と魅力を記していこう。
説明がほとんどないからこその「残酷な世界」の普遍性
あらすじはこうだ。舞台は世間から隔絶された山岳地帯。そこで暮らしていた少年少女たちはゲリラ組織に所属しており、モノス(猿)というコードネームで呼ばれていた。彼らは人質であるアメリカ人女性の監視と世話という任務を遂行していたが、飼っていた牛を仲間のひとりが誤って撃ち殺してしまったことから、不穏な空気が漂い始める。
簡単に内容を記せば、「人質の女性を監視する8人の少年少女のサバイバル劇」だ。戦争時の過酷な日々と旅路が美しい映像で綴られていることから『地獄の黙示録』(1979)、子どもたちによる対立や暴力が描かれる様から映画も有名な小説『蝿の王』を思い出す方も多いだろう。実際に、アレハンドロ・ランデス監督はそれらの元となった小説『闇の奥』に影響を受けたと語っており、『蝿の王』でもっとも象徴的なイメージである豚の頭も劇中に登場させている。
さらなる特徴は、冒頭で記したように劇中でほとんど説明がないことだ。少年少女がゲリラ組織のメンバーであることは軍事訓練のシーンなどから何となくわかるが、彼らがどこから集められ、何と戦っているのか、いつの時代なのかなどは明確にされないまま、物語は淡々と進行していく。
それも実は意図的なもので、ランデス監督はコロンビアの内戦からインスピレーションを得ながらも、ストーリーからプロダクションデザインに至るまで、何もかもから遠く離れた、時代も場所も特定できないような、時間を超越した世界を作ろうと、国境を越えてそれ自体がひとつの世界として存在することを目指したのだという。
つまり、本作は現実の世相を反映しながらも、はっきりとしない「世界のどこか」を舞台としており、それによってコロンビアというその土地に限らない普遍性を確立しているとも言える。それこそ、少年少女が兵士として戦争に駆り出され、恐ろしい暴力性を見せたり、人を殺してもいる、ということは世界中で起こっているのだから。
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