「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティ」とは何か? 元芸人が真剣に考えた
#BPO
お笑いにおける“痛み”とはいったいなにか
『ガキ使』特番のどのシーンに“痛み”を感じるのか? たぶん多くの人は、出演者たちが笑ってしまうことで執行される罰ゲーム”ケツバット”を思い浮かべるだろう。だが番組を観ていてあのケツバットで笑ったことがあるだろうか?あれは笑った後の罰ゲーム。つまり痛みを伴う笑いではなく、笑ったので痛みを執行するという事なのだ。
屁理屈に思うかもしれないが、痛みを伴う事(ケツバット)を笑いの対象としていないのだ。笑いの対象はあくまでもケツバットの前だ。
そしてこの番組ではもうひとつ思い浮かぶであろうシーンがある。それは月亭方正さんがプロレスラーの蝶野正洋さんにビンタをされるシーンだ。これについて蝶野さんがコメントをしている。
「14~5年前にオファーをもらったものの、ビンタと言えばアントニオ猪木さんのイメージが強かったし、自分は試合でビンタをしないから、自分の中でビンタする事への戸惑いがあり『ビンタをほかの形に変えて欲しい』と言おうと思ったが現場の責任者が見当たらず結局ビンタをすることになった。素人を叩くというのが一番怖かった。『壊すんじゃないか』という怖さが。もうオファーは無いだろうと思っていたら、思いのほか好評で翌年もオファーがあり、あれよあれよと十数年。人を叩くという事の怖さ、壊すこわさを知っているからこそ、基本的に人を叩くという事が好きではなく、毎年『笑ってはいけない』の収録がある少し前から方正君と同じく体調が悪くなる。ここ十数年はビンタで気が重かった。本当にリラックスして過ごせる年末は久しぶりだから、とにかくゆっくり過ごしたい」
かなり簡潔に要点だけをまとめて書いてみたが、こんな感じのコメントをしていた。
確かに怖いかもしれないが、蝶野さんは余計な心配をしていると僕は感じる。月亭方正さんはプロレスに関して素人かもしれないが、芸人としては一流のプロ。芸人界隈では笑いの神に愛された男とすら言われている。そんな男はビンタ程度で壊れたりしないのだ。
そもそも「ビンタをするぞ!」「いいのか!」「覚悟しろ!」というのがプロレスラー蝶野正洋のエンタメであって、それに対して「やめて!」「誰か変わって!」「あいつです!あいつが犯人です!」というのが月亭方正のエンタメだ。プロ同士のエンタメの何が悪いというのか。違うジャンルで一流になった人達が磨かれた技をぶつけ合っているだけの話。何の問題もない。しかもケツバットと一緒で、ビンタの前が笑いのピークであり、ビンタで笑いが起こるということではないのだ。ということはこれも”痛みを伴う笑い”ではない。
「全部屁理屈じゃないか!」という人もいるかもしれない。だったら逆に”痛みを伴わない笑い”とは何なのか教えて頂きたい。僕の頭の中にある一番古いお笑いまで辿ったとしても”痛みを伴う笑い”が、ほとんどを占めている。
ちなみに僕の一番古いお笑いの記憶。それは『ドリフターズ』だ。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事