危険な三角関係を描く青春映画『ひらいて』で気づく山田杏奈の「目力」が、その演技の「総決算」になった理由
#山田杏奈 #綿矢りさ
2021年10月22日より、映画『ひらいて』が公開されている。
本作は芥川賞作家・綿矢りさが2012年に発表した小説の映画化作品だ。結論から申し上げれば、本作は少女の「どうしても傷つけてしまう」心理を綴った、「こじらせ」系の青春映画の秀作だった。さらなる魅力を紹介していこう。
「モヤモヤ」が根底にある、自分も周りも傷つけてしまう物語
あらすじはこうだ。明るい人気者の高校3年生の「愛」は、同じクラスの地味な男子生徒「たとえ」に片思いをしていた。ある日、たとえが大事そうに手紙を読む姿を目撃した愛は、悪友たちと共に夜の学校に忍び込んだ時に、1人で教室に入り机の中にあった手紙を盗んでしまう。手紙の主は内気な少女「美雪」で、たとえと秘密の交際をしていたのだ。愛は複雑な気持ちを抱えたまま美雪に近づき、急速に仲良くなっていくが……。
物語の主軸にあるのは「三角関係」だ。ただし、想い人をめぐって2人が取り合う単純なものではない。主人公は、かつて激しい運動中に糖尿病のため倒れてしまった(今では恋敵となった)少女のために、甘いジュースを口移しで飲ませたことがあった。それが少女のファーストキスと知った主人公は「ちゃんとやり直そうか」と強引に唇を奪ってしまう。その後には性愛も含む、さらなる危険な関係へと発展していくのだ。
「なぜそんなことをするのか?」と誰もが思う疑問が、主人公自身の気持ちとシンクロしている、物語の根底には「理解できないモヤモヤ」があることが重要だ。原作小説でも「なぜたとえへの恋心が流れに流れて、美雪への接近にまで変質したのか、自分でもわからない」「うまくいけばたとえへの接点にもつながると考えていたのはもちろんだった」「でもそれ以外にも美雪への純粋な興味としか言えない感情も芽生えていた」などと、彼女は自問自答しているのだから。
主人公はその後も、「想い人を恋敵から奪うため」という理由では、論理的にも道義的にも説明できない、自分も周りも傷つける言動ばかりをしてしまう。その様子は痛々しいし、人によっては共感しづらいかもしれない。だが、その思春期後期ならではの不安定かつ破壊的な心理や、恋愛を起因とした「なんであんなことをしてしまったんだろう」という若気の至りは、大小はあれど誰もが経験しているものではないだろうか。
これらからわかる通り、主人公は普通のキラキラした恋愛青春映画に登場するような「良い子」では全くない。序盤の(原作小説とは異なる描写である)「わざとゴミ箱を階段から落として、想い人にその片付けを手伝ってもらって、会話の糸口を掴む」ことからも、はっきりと「ズルい」性格であることがわかる。そんな彼女が、どのような気づきを得て、そして成長していくかが見所となっていた。その先にある「答え」は単純ではないが、どこか清々しさもあった。
なお、本作はPG12指定がされており、性的な話題もベッドシーンも存在する。それもまた、真っ当な恋愛とは正反対の、恋敵への性愛に発展してしまう痛々しさ、もっと言えば生々しさを描くためには、必要なものだった。
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