危険な三角関係を描く青春映画『ひらいて』で気づく山田杏奈の「目力」が、その演技の「総決算」になった理由
#山田杏奈 #綿矢りさ
山田杏奈の「不満を溜め込む」役に説得力を与える「目力」
本作の目玉は、何より山田杏奈が主演を務めていることだろう。彼女はこれまでも、良い意味でダウナーな「不満を溜め込む」役も多く演じてきており、今回の『ひらいて』はその「総決算」と言っても良いものになっていた。
例えば、映画初主演作『ミスミソウ』(18)では普通の中学生だったのに、殺された家族の復讐のためいじめっ子たちを血祭りにあげる強烈な役を、『五億円のじんせい』(19)では小児病棟で慕っていた聖母のようなお姉さんと、それとギャップのある攻撃的な人物という「1人2役」を見事にこなしていた。
その後の『小さな恋のうた』(19)や『ジオラマボーイ・パノラマガール』(20)や『樹海村』(20)でも、底知れぬ「想い」を感じられると同時に、誰かを激しく傷つけてしまったり、感情を爆発させてしまいそうな「危うさ」がある、山田杏奈はそんな役を演じ続けていた。
山田杏奈のすごさは、それらの役柄を「目力」をもって見事に表現していることではないか。目そのものはクリっとしていて愛らしく、それこそ『名も無き世界のエンドロール』(20)やドラマ『新米姉妹のふたりごはん』(19)のようにほぼ完全に天真爛漫な方向のかわいいキャラクターにもハマる。だが、時に見せる「睨みつける」表情には、「逃れられない」と思うほどの、とてつもない強さを感じさせるのだ。
今回の『ひらいて』で演じるのは、前述したように自分も周りも傷つけてしまう、全く良い子ではない少女だ。今回の彼女が不満を溜め込んでいる相手は「自分自身」とも言える。つまり、どこにも怒りをぶつける対象がいないからこそ、不満をぶちまけることはできず、さらにイライラを募らせて負のスパイラルに陥ってしまう。そんな役柄に山田杏奈の鋭い目力は、さらなる説得力を与えているのだ。
さらに『ひらいて』の劇中では、山田杏奈演じる主人公が「貧しい笑顔だね」と言われてしまうシーンがある。貧しい笑顔と字面で見ても、どういう顔かは普通は想像できないだろう。だが、山田杏奈のその時の表情は、確かに貧しい笑顔としか形容できないものだった。不満を溜め込み、それ以上に複雑でもある役柄が行き着いたその表情には、それだけで感動があったのだ。
恐ろしいまでの演技力を見せる山田杏奈が、その共演者も決して引けを取ってはいない。アイドルグループHiHi Jetsのメンバーでもある作間龍斗は演技経験は決して多くはなく、本格的な映画出演は今作が初ではあるが、美形であると同時に朴訥とした雰囲気がとても役にマッチしていた。『37 Seconds』(20)や『ソワレ』(20)など高評価を得た作品で印象的な役を演じてきた芋生悠も、人付き合いが苦手そうではあるが、芯の強さも感じさせる、山田杏奈演じる主人公と「対等であろうとする」立場を見事に体現していた。これら若手俳優のアンサンブルこそ、本作の最大の魅力と言っていいだろう。
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