テリー伊藤を世間は本当に捉えきれているのか? 伝説的テレビマンの狂気と情を掘り起こした『出禁の男』
#テリー伊藤
歴史小説やノンフィクションを読むと心躍る言葉がある。
「後の○○である」
三国志でいえば劉備や曹操、日本の歴史では豊臣秀吉や幕末、企業では創業メンバーが後にテスラ、YouTube、LinkedInを立ち上げる「PayPal」など。偶然か必然か、天才・異才たちが吸い寄せられるように一カ所に集まっていき、大きな渦を起こしていく。
本著『出禁の男』(イースト・プレス)の主人公であるテリー伊藤こと伊藤輝夫もまた、大きな渦の中心であり、才能ある若者が誘われるようにその渦へと巻き込まれていく。
伊藤の周りを固めるのは、AVメーカー「ソフト・オン・デマンド」の創業者で、その後に国立ファーム有限会社を設立した高橋がなり。「電波少年」を立ち上げT部長として名を馳せる土屋敏男。「ウッチャンナンチャンのウリナリ‼︎」などの演出を務め、現在は「AX-ON」代表取締役の加藤幸二郎。「世界の果てまでイッテQ!」の制作会社「コール」代表取締役の岡崎成美といった「後の◯◯である」な人物たち。
著者である本橋信宏もその中の一人だ。そこにビートたけし、稲川淳二、たこ八郎、X-JAPAN、とんねるず、浅草キッド、江頭2:50などの個性的な有名人の物語が交差していく。そんな話が面白くないわけがない。
しかも当時のテレビ業界といえば、今から見れば完全な無法地帯。どれほどの当時ノーコンプライアンスなのかは、物語冒頭で語られる類人猿オリバーに持ち上がった企画(伊藤の企画ではない)がいい例だろう。
「オリバー君の花嫁候補としてお見合い相手が募集されると、数十人もの日本人女性から応募があり、十九歳の元女優が選ばれた。一夜を共にして出産したら報奨金として一千万円が贈呈される。夜の営みを実況中継する計画まで練られた」(P17より)
結局、このテレビ企画は抗議の末に頓挫するのだが、この企画が検討されている時点でどうかしている。
そんな時代の中でも出入り禁止を食らっていた伊藤が、若者たちと無茶に無茶を重ねて暴れ回り、「東大生の血をたこ八郎に輸血し頭がよくなるか実験」「トラの荒れた唇にリップクリームを塗る」「常磐道で無許可で自動車レース」というあり得ない企画を実現していく。異世界転生ものでもこうも無茶はできない。
本著を読むと、いかにわれわれが「テリー伊藤」という人物を漠然としか掴めていなかったがわかる。
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