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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > おぼん・こぼんの“許し”をめぐる物語

おぼん・こぼんの“許し”をめぐる物語と、最後の最後の急展開

おぼん「まぁ、死ぬまでやな」 こぼん「もう、間もなくだ」

 おぼんが出ていった結婚式場。画面には「おぼん・こぼん解散決定」とのテロップが出る。最悪の展開に、いや、これは2年前にただの喧嘩で終わり実現しなかった解散ドッキリなのでは……などと微かな希望を抱いて安心したくなる。

 見届人であるナイツの2人は、式場の外へ出ていったおぼんを追いかけた。そこで、おぼん・こぼんに約40年連れ添ってきたマネージャーも交えた説得が続いた。その説得を受け、おぼんの心境も変化。自分からも譲歩する約束をし、会場へと戻った。

 そして、おぼんのほうから、こぼんに手を差し出す。握られた手。参列者から沸き起こる拍手。「いまここに、浅草のレジェンドコンビが仲直りしました」と牧師。これで“仲直り”か……と思われた瞬間、今度はこぼんが「仲直りじゃない」と語気を荒げ、「もういまの仕事で辞めようと思ってます」と宣言した。今度はおぼんが譲歩したところで、こぼんが一度は握ったその手を払いのけてしまうのだった。

 おぼん・こぼんの2人は一旦式場を後にし、それぞれの控室へ。今度はナイツとマネージャーがおぼんを説得にかかる。大きな窓から見えていた青空は、いつの間にか夕暮れになっている。ナイツらの慎重な交渉の結果、こぼんは漫才を続けることを渋々ながらも納得した様子を見せた。おぼんのほうも、スタッフに「半分でも漫才やりたい気持ちはあるよ」などと語った。

「漫才だけやろうっていう気持ち。おもろい漫才やるには、もうそれしかないわ。よっしゃ! そうしよ」

 ここでカットが切り替わる。それまでおぼんを正面から捉えていたカメラは反転し、控室を出て歩き始めるおぼんを追いかける。おぼんは、すでに撤収作業の始まっていた式場へ。こぼんもいるその会場で、おぼんは「どうもみなさん、ホントにいろいろご迷惑かけて申し訳ございません」と頭を下げ、語り始めた。

「俺も意地張ってたところがいろいろあるんで。じゃあ、あの、この場借りて、俺も入れ替えるからお前も入れ替えや。もういっぺんやり直そう」

 そう呼びかけて、おぼんは手を差し出した。その手を、こぼんは握った。

 唐突な“仲直り”だった。その後は、それまでのトゲのある空気感はどこへやら。「ようこそおいでくださいました」というおぼんの言葉を合図に、会場の人たちに向け2人は即興の漫才を繰り広げた。緊張と緩和の落差がすごい。こんな流れのなかでは、どんなネタでも2人の呼吸が合っているだけで笑ってしまう。

 その後、後日談として、浅草の東洋館で芸人やマネージャー、娘たちを前に漫才を披露するおぼん・こぼんの様子も放送された。揃いの衣装でセンターマイクの前に歩いて立つ2人。披露された「献血」と題されたネタは、おぼんいわく、「仲直りするときはこのネタ」と決めていたものらしい。19年ぶりに披露するというその漫才は、会場の笑いを大いにさらった。その笑顔は、2人がどれだけ周囲に愛されていたかを示しているようでもあった。

 VTRは、控室のようなところにいる2人がカメラの前で改めて手を握り、息のあった掛け合いを見せたところで終わった。

おぼん「まぁ、死ぬまでやな」
こぼん「もう、間もなくだ」

 それにしても、である。決定的な決裂から、不仲の解消までの急展開。なぜ2人は“仲直り”にいたったのか、その理由は明確には語られない。その場にいた塙宣之(ナイツ)も「何があったんですか? この短期間に」と、戸惑いを隠せない様子だった。

 おぼん・こぼんの関係にいろいろと手を突っ込んできた『水曜日のダウンタウン』。語られていない2人の心境を解釈し、代弁するようなナレーションやテロップを重ねることもあった。そうやって「不仲→仲直り」のストーリーが作りあげられてきた。見る側もそれを楽しんできた。おぼん・こぼんの2人ですら、少なからずそのストーリーを意識して動いているようにも見えた。

 しかし、最後の最後、カメラがおぼんを追いかける形になったところからしばらくの間、わかりやすい理由づけは手放され、事態をただ追いかけるものへと切り替わった。2人が“仲直り”した理由については視聴者にも、芸人仲間にもよくわからないままに残された。それは、番組が踏み込んではならない最後の一線を守ったということでもあるかもしれないし、そっちのほうが面白い映像になると判断したのかもしれないし、それ以外の理由によるものかもしれないし、そのいずれでもあるかもしれない。

 記事の途中で「“許し”を目にしたいという気持ちになった」と書いた。だが、わかりやすい“許し”の物語を求めるのもまた、スッキリとした“決別”を求めるのと同じなのだろう。決定的なところで解釈を手放す感じ。それで良いのだと思った。それがこぼんが語る“普通”に重なるのだろうとも思った。

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2021/10/12 18:00
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