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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 『イカゲーム』なぜ日本のコンテンツは売れない!?

『イカゲーム』パクリ論争の背景にある「なぜ日本のコンテンツは売れない!?」怨嗟の念

作品論だけで語る日本側の間違い

 なお、韓国からヒット作品が登場すると、日本では「作品論」に成功の理由を求めることが多い。イカゲームに関しては、「格差問題が反映されている」、「社会性が強い」「人間ドラマが濃い」など、ほかの同ジャンル作品と比較し優劣を評論する論調が多いようだ。それは確かに理由のひとつなのだろうが、理由のすべてではないだろう。例えば、ある韓国誌記者からはこんな話を聞いた。

「韓国ではNetflixに売り込みをかける、監督やPD、脚本家、記者などがここ数年で急増している。みな専門性や追求してきたテーマがある人たちではあるものの、オールドメディアに従事しているだけでは生活が不安。どこかで一発あてたいという思いから、Netflixなど動画ストリーミング業界での作品づくりを目標にする機運が高まっています」

 これはNetflixなど動画ストリーミングサービスで作品化するために激しい競争が起きているということであり、作品論以前の問題として、良質なコンテンツが生まれるための下地が整いつつあるということになる。

 優秀な制作人材が競争するとなれば自ずと作品は淘汰され、予算の量や演者の質も変化してくるだろう。今後分析をするにあたり、Netflixが日韓コンテンツに割く制作予算やPR予算の違いや、作品選定フローなどが明らかになっていけば、なぜ『イカゲーム』がヒットすることになったのか、より生産的な議論ができるようになるかもしれない。もちろん、タイミングや運の要素も多分にあるはずだ。

 また監督の経験談も成功の要因を探すためには参考になる。ファン監督は「デビュー作は評価されたが商業的に成功できなかった」、そのため「経済的にものすごく苦労した」と話している。言い換えれば、「商業的な成功」に非常にハングリーだったといえよう。

 加えて、自身の辛い経験からカイジに魅せられ、どうにか自分の世界を表現しようとした。つまり、“作品を発信する主体”が自分自身だったのである。このふたつのモチベーションが、イカゲームを生んだ。

 日本のコンテンツ原作は世界に類をみないレベルの高さだ。しかし、それを実写化、ドラマ化した際には、世界の人にはあまり見てもらえない。「知名度が高い作品を、知名度が高い俳優陣で制作すれば、日本国内で数字はある程度取れるだろう」という、高を括ったモチベーションと自己満足感が透けてみえるからだ。そしてそのモチベーションは、個人というよりも集合的に形成されている。

 一方、個人が経験した喜び、悲しみ、苦しみをどう相手に伝えるか、伝えるためにはどう伝えればいいか、「共感」と「結果」対する試行錯誤のレベルがとても高く、必死だったからこそ、視聴者に伝わりイカゲームはヒットしたのではないだろうか。

 むしろ、ファン監督は自分の人生の勝負をカイジに感じたインスピレーションにかけたことになる。そこには、「パクったろう」という安易な発想どころか、作品に対するリスペクトや畏敬の念すら感じるのだが……。いずれにせよ、どう抱くに対する多角的な分析がなされ、日本のコンテンツ業界の刺激に繋がることを祈るばかりである。

河 鐘基(ジャーナリスト)

リサーチャー&記者として、中国やアジア各国の大学教育・就職事情などをメディアで発信。中国有名大学と日本の大学間の新しい留学制度の設置などに業務として取り組む。「ロボティア」「BeautyTech.jp」「Forbes JAPAN」など、多数のメディアで執筆中。著書に「ドローンの衝撃 」(扶桑社新書) 「AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則」 (扶桑社新書)、共著に「ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実」 (光文社新書)など。

Twitter:@Roboteer_Tokyo

はじょんぎ

最終更新:2021/10/09 21:00
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