映画『草の響き』東出昌大が「信じたくても信じきれない」役にハマる理由
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2021年10月8日より、映画『草の響き』が公開されている。
本作は41歳の若さで亡くなった佐藤泰志による小説の映画化作品だ。近年では再評価が進み、『海炭市叙景』(10)『そこのみにて光輝く』(14)『オーバー・フェンス』(16)『きみの鳥はうたえる』(18)と作品の映画化が続いている。
佐藤泰志の小説の5度目の映画化となる今回の『草の響き』の目玉は、東出昌大が主演を務めていることだろう。誰もが知る人気俳優ではあるが、『寝ても覚めても』(18)で共演した唐田えりかとの不倫報道のために、世間からバッシングを浴びせられていた。
だが、東出昌大はその報道後も『スパイの妻〈劇場版〉』(20)の非人間的な恐ろしさをみせる役や、『BLUE/ブルー』(21)の実力派のボクサーなどで、強い印象を残し続けてきた。今回の『草の響き』では、東出昌大というその人が持つパーソナリティだけでなく、不倫報道があったことさえも役にシンクロした、過去最高クラスの当たり役と言えるのはないか。
だからこそ、不倫報道のために東出昌大へ不信感や嫌悪感を抱いてしまった方に観てほしいと願える映画にもなっていた。さらなる作品の特徴を記しつつ、その理由も書いていこう。
「引きの画」で語られる若者たちの物語
あらすじはこうだ。東京で出版社に務めていた和雄は精神のバランスを崩したため、妻の純子と共に故郷の函館に帰ってきた。和雄は医師の薦めでランニングを始め、雨の日も風の日も走り続け、出会った若者たちと交流していく。
物語の主軸は「心の病(自律神経失調症)に冒された男が走り続ける」というシンプルなもの。そこに、少し不遜でもある昔からの友人や、しっかりものの妻との関係性も織り交ぜながら、どのように男の心境が変化していくのか、という静かなドラマが見所になっている。
それと並行して語られるのは、広場でスケボーで遊び、そこへ原付で乗りつけたり、花火をしたりもする、どこにでもいそうな若者たちの物語だ。彼らがどのような悩みを持ち、どのような行動していくのか、そこには説明がほとんどなく、良い意味で不明瞭な印象もある。だからこそ、彼らの動向を追うことが、ミステリー的な興味も持続する。
特徴的なのは、その若者たちの物語の多くが「引きの画」で撮られていることだ。おかげで、「ランニング途中で出会って一緒に走る程度」の主人公とほぼ同じ俯瞰した目線で若者たちを見られる、「彼らのことをよく知りようがない」からこそ、終盤のとある展開がより「突き刺さる」ようにもなっていた。
ひたすら走り続けることで何とか精神のバランスを保とうとしている男と、怠惰な日々を過ごしながらも「生きることの意味」を模索しているようにも見える若者たち。この対比が何を意味しているのか……観終わった後に、それをじっくりと考えられることに、この映画『草の響き』の奥深さがある。
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