ゲノム編集されたマダイが販売開始へ! 近大系ベンチャーが開発 背景に“水産王国”日本の衰退事情
#漁業
世界で初めてのゲノム編集により作り出された「可食部増量マダイ」が販売される。国内の漁業生産量が減少を続ける中で、果たして”救世主”となるのか。
日本の漁業は衰退の一途を辿っている。2020年度の「水産白書」によると、漁業就業者数は09年には21万1810人だったが、就業者の高齢化も手伝い、新規就業者が減少していることも響き、たった10年で19年には14万4740人に31.6%も減少している。(表1)
就業者数の減少は、漁船数の減少にも顕著に現れている。漁船数は1968年には34万5606隻と漁業の活況を示していたが、30年後の98年には10万隻以上も減少し、68年比で31.5%減の23万6484隻に。さらに08年には68年比で46.3%減の18万5465隻に減少した。
そして、18年には68年比61.7%減の13万2201隻と50年間で半数以下にまで減少してしまった。(表2)
こうした状況は、当然のことながら漁業生産量に大きな影響を与えている。農林水産省の「20年の漁業・養殖業生産統計」によると、11年に476万6000トンだった生産量は20年には12.4%減少し、417万5000トンとなった。
このうち漁業は11年の382万4000トンから20年には315万4000トンに17.4%も減少した。漁業の減少を支えてきたのが養殖業だが、その養殖業は11年の86万9000トンから96万7000トンへと11.2%増加しているものの、漁業生産量を増加させるには至っていないのが現状だ。(表3)
結局、かつて“水産王国”を誇った日本は、魚介類を輸入に頼らざるを得なくなっており、今や、口に入れる魚介類の多くは、海外で捕れた、あるいは養殖されたものになりつつある。
こうした漁業の衰退に、「可食部増量マダイ」は“一石を投じる”ことになるかも知れない。
この「可食部増量マダイ」は、京都大学と近畿大学の協力により、リージョナルフィッシュが作り出した。リージョナルフィッシュは、京都大学と近畿大学による共同研究で生まれた技術を使った大学発のスタートアップ企業だ。
可食部増量マダイは、ミオスタチン遺伝子を欠失させるゲノム編集技術を使って生み出される。ミオスタチン遺伝子を欠失したマダイは、可食部(食べられる部分)が約1.2倍(最大で1.6倍)になり、飼料利用効率が約14%改善される。
ミオスタチン遺伝子の欠失というゲノム編集は、遺伝子組換えではなく自然界でも起こりうる変化であること、食品としての安全性が従来の食品と同程度であること、生物多様性に悪影響を及ぼすものではないことが確認されている。
今回、可食部増量マダイを生み出した近畿大学は、かつて02年に世界で初めてマグロの完全養殖に成功し、「近大マグロ」という商標で商業化を成し遂げている。その近畿大と京都大がタッグを組んで、新たに生み出したのがマダイだった。
リージョナルフィッシュは9月17日、「可食部増量マダイ」について厚生労働省と農林水産省への届出を行った。これにより、同社は国の手続を経て、10月から「可食部増量マダイ」の販売を開始する。
少子高齢化と労働意識に変化により、漁業就業者は大きく減少し、さらに、日本近海での漁獲量の減少が衰退に拍車をかけ、漁業生産量は減少が続いている。こうした状況の中で、新たな養殖技術、品種改良が実用化されることは、養殖業の生産性向上を通じて、日本の漁業生産量の回復につながる可能性を秘めている。
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