関東大震災「朝鮮人虐殺」を起こした自警団とは――ラムザイヤーも信じたフェイニクニュースの真相
#社会 #歴史 #フェイクニュース
1923年9月1日に起こった関東大震災の混乱の中で発生した日本人による朝鮮人虐殺に関して、日本では根強く「大量虐殺を物語る公文書はない」「流言は根拠のないデマではなかった」「殺された朝鮮人はいたが犯罪者で、日本人の正当防衛だ」と主張する否定論・正当化論がある。小池百合子東京都知事が朝鮮人虐殺の慰霊行事に送る追悼文を取りやめるなど、政治の世界でもその信奉者が存在する。
また、「従軍慰安婦は契約による売春婦だった」という主旨の論文を発表したことで知られるハーバード大学のジョン・マーク・ラムザイヤー教授は、2019年6月に執筆した論文で虐殺の原因となった「朝鮮人が放火した」「井戸に毒を投げ入れた」などの流言は実体なきデマではなかったとし、殺された朝鮮人の数はこれまで語られてきたほど多くないと主張していた。
こうした主張の論拠となってきたのは当時の新聞だが、しかし、そこには誤報・虚報が少なからず含まれていた。そうしたフェイクニュースはなぜ・いかにして生じ、どうして新聞社や政府によって訂正・周知がなされてこなかったのか。
ジャーナリストの渡辺延志氏は今年、そのプロセスを自身の記者経験を活かして検証し、虐殺の当事者である「自警団」とは一体何者なのかを追った『歴史認識 日韓の溝』『関東大震災「虐殺否定」の真相――ハーバード大学教授の論拠を検証する』(共にちくま新書)を立て続けに出版。そんな渡辺氏に、虐殺の知られざる背景について訊いた。
朝鮮半島で抵抗者を殺した「自警団」
――渡辺さんがこの問題に対して抱いた疑問点は、言われてみれば確かに不思議なことですが、今まで深く掘り下げられてこなかったものですよね。
渡辺 論争となっている関東大震災における朝鮮人虐殺をめぐっては、私には理解できない疑問が2つありました。
被災地に流れた流言飛語が虐殺を引き起こしたとされますが、その内容は荒唐無稽です。流言というと、「朝鮮人が家に火をつけた」とか「井戸に毒を投げ入れた」といったものをイメージされるかもしれませんが、当時の新聞を見ると、「朝鮮人が武装して集団で襲ってくる」というのが核心です。いかに空前の混乱の中とはいえ、なぜ多くの人がそのような流言を信じたのか。これが、まずひとつです。
万が一、その流言が迫真のものであったとしても、なぜためらうことなく人を殺したのか。通信も交通も杜絶した被災地の広い範囲で同時多発的に虐殺は起こっています。これまでは精神異常がもたらした出来事として理解しようとされてきましたが、人は誰でもそれほど簡単に人を殺せるのか。これが、2つ目の疑問でした。
――何日にもわたって、広範囲に虐殺が起こっていたわけですものね。
渡辺 そこで、虐殺の主体となった自警団とはどのような存在だったのかを調べました。これまでは震災直後に被災地の至るところで自然発生的に誕生したといった具合に語られてきましたが、核になる組織は震災の前に準備されていたことがわかりました。1919年にあった米騒動を教訓に、「民間の警察」をつくろうと警察が組織作りを進めていたもので、中心となったのは在郷軍人でした。在郷軍人とは戦場からの帰還兵であり、その中には朝鮮半島において従軍し、そこで「不逞鮮人(ふていせんじん)」「朝鮮人パルチザン」と呼ばれた抵抗者との戦いを経験した者も含まれていたはずなのです。
――例えば日清戦争の引き金となったといわれる、朝鮮王朝下で1894年に起こった東学農民の蜂起(甲午農民戦争)に日本が出兵し、農民側の犠牲者は3~5万人にも及んだそうですね。
渡辺 朝鮮半島で日本支配に抵抗した「不逞鮮人」「朝鮮人パルチザン」は日本人が恐れ、日本軍がことごとく殺害する対象でした。その経験と記憶から、震災時に流言が出回ると在郷軍人からなる無数の自警団員たちはためらわずに朝鮮人虐殺に及んだのだろう、と考えられます。
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