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日刊サイゾー トップ > エンタメ > テレビ  > 『関ジャム』Creepy Nutsの“普通”コンプレックス

『関ジャム』Creepy Nuts は“普通”というコンプレックスをどう逆手に取ったのか?

『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)Twitter(@kanjam_tvasahi)より

 9月19日放送『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)はCreepy Nutsをゲストに招き、2人のスゴさを音楽的に解剖する特別企画が行われた。

 言ってしまうと、9月1日に発売されたニューアルバム『Case』の宣伝を兼ねているのは明らかだが、図らずもこの時期にヒップホップを特集するのは意義があった。愛知県常滑市で8月29日に開催された野外ヒップホップイベント「NAMIMONOGATARI 2021」がコロナ対策を怠ったとして大炎上したばかりのタイミングでもあるのだ。

 余談だが、同日同時間帯に放送されたスペシャルドラマ『バンクオーバー!~史上最弱の強盗』(日本テレビ系)には般若が出演していた。『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)の新旧ラスボスが裏被りするという、因縁めいた状況でもあったのだ。

自分が褒められるための企画でどうしても人を褒めるR-指定

 今回行われたのは、「Creepy Nutsのスゴさを解剖!!」なる企画。「褒められたい」という承認欲求を隠さない、DJ松永のための特集だ。

 UMB3連覇のラッパーと世界一のタイトルを奪取したDJのユニットである。松永が言わずとも、2人の支持者は多い。この日出演した山之内すずは、仕事へ行く前にCreepy Nutsの「生業」と「教祖誕生」を聴くのが常だそう。よりにもよって、この2曲を愛聴しているのはディープだ。「教祖誕生」で印象的なのは「ほら また やつらがオリコン独占中 それ実力か? 枕営業か?」「案ずるよりは売るが安し秋元ってか?」という歌詞である。

 彼女のような若い女子がCreepy Nutsの主な支持層だが、ヒップホップには歴史がある。というわけで、まず番組は日本のヒップホップを文化という側面から紹介した。言わずと知れたクラシックのBUDDHA BRAND「人間発電所」、B-BOYを定義したアンセムであるRHYMESTER「B-BOYイズム」等を取り上げたのだ。さらに、RHYMESTERが忌野清志郎とコラボした「雨あがりの夜空に 35」の映像が流れるや、R-指定が思わず口を開く。

「日本の『Walk This Way』みたいな感じですよね。Run-D.M.C.の流れを、改めて日本のロックスターと日本のヒップホップスターでやったみたいな」(R-指定)

「褒められたい!」という欲求から始まった企画なのに、RHYMESTERの活動を「Run-D.M.C.の系譜にある」と分析、どうしても褒める側に乗っかってしまうR-指定に人の良さが窺える。

 続いて、現在のシーンを席巻するアーティストとして紹介されたのはPUNPEEであった。音楽プロデューサーの松尾潔が「KREAVAとMummy-D(RHYMESTER)に並べる才能」と評したほどだが、事実、彼の楽曲にはヒップホップに興味を持たない人でも聴ける楽曲が多い。

 さらに、松尾が「今年のヒップホップシーンの最大のトピック」と評価したのは、STUTS & 松たか子 with 3exesの「Presence I feat. KID FRESINO」だった。松の主演ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)主題歌であり、人気ラッパーが集結した楽曲だ。同作の脚本家・坂元裕二の「俳優にラップしてほしい」という提案で主題歌はヒップホップに決まったものの、プロデューサー・佐野亜裕美がヒップホップに疎かったため、古巣TBSの先輩・藤井健太郎プロデューサーに助言を求め、STUTSにつながったという。藤井は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)オープニングテーマにPUNPEEを起用するほどのヒップホップ好きである。

Creepy Nutsがはみだし者たちの中で戦うための裏技

 番組中盤、ようやくCreepy Nutsの楽曲「合法的トビ方ノススメ」が紹介された。松尾はこの曲を「B-BOYイズム以来の名ヒップホップアンセム」と評する。

「『合法的』ってさらっと言ってるけど、ここなんですよね。タフな生い立ちがそのままラッパーの魅力になってる人たちはたくさんいて、僕もそういうスタイルは大好きなんですけど、音楽でどんなにヤバいことを表現しても社会的には一市民としての慎みを忘れない。ヤバいことを表現するために音楽をやってるというより、音楽の中でどこまで表現できるかというゲームをやってるんだ……ってラップをしている気がしました」(松尾)

 今やCreepy Nutsの強みとも言える2人の“育ち”は、かつて間違いなく彼らにとってコンプレックスだった。

「自分の中ではカウンターとして曲を書いたんです。はみだし者たちの中で俺たちは普通なんで、その中でどう戦っていくかってことで『お前らがやんちゃなことやってんねやったら、そうじゃないやり方でお客さんトバすぞ』ってことで書いただけで。裏技というかカウンターじゃないけど、ああいうこと言うほうが異端やったというか」(R-指定)

 このスタンスを松尾は「コアなヒップホップファン以外にも浸透する理由」と分析したが、事実、この曲は至極キャッチーだ。とは言え、歌詞はスレスレ。「なんせ 魅力は満点 潮吹きアクメ スプラッシュマウンテン めちゃ エログロ ナンセンス」というフレーズが地上波で流れたのは画期的だし、ヒップホップだった。

「『俺の音楽でこれだけさすぞ』ってことを言ってるんです(笑)」(R-指定)

DJ松永のトラックは“聴き心地”を絶対に捨てない

 同業者もCreepy Nutsのスゴさを解説する。OKAMOTO’Sのハマ・オカモトが評価したのは、DJ松永のトラックメイカーとしてのスタンスだ。

「凝りすぎてないって言うとちょっとおかしいんですけど……凝ってるはずだから。でも、一聴してスッと入ってくる凝り方っていうか音作りっていうんですかね」(ハマ)

 この分析には、相方のRも「我が意を得たり!」だったようだ。

「メチャクチャ凝っていてめっちゃ繊細な技が張り巡らされてるんですけど、聴き心地を絶対に捨てないというか人懐っこいビートっていうのがあって。かつ、やっぱりどっか変なんですよね。どっか一癖二癖、松永の匂いがある。一番最初に曲作ったときも、そこが俺は“ガン!”と引っかかったというか。聴きやすいんやけど変っていう」(R-指定)

 結局、松永を一番まっすぐに褒めるのはRである。まあ、これは予想通りだ。そんなRを分析するのは、ラップ集団「梅田サイファー」のメンバー・KennyDoesである。

「キレイに長い韻を踏みながら、話の筋もはみ出さない。韻のために言いたいことも曲げないし、言いたいことのために韻も曲げない。ストイックさが同じラッパー目線から伝わってくる」(KennyDoes)

 また、この人の説明がメチャメチャわかりやすいのだ。これは「ラッパーは話がうまい」という単純な話ではなく、彼特有の資質である。家電量販店に勤務していたKennyは4月17日放送『梅田サイファーのオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)にておすすめの家電を紹介。そのときのプレゼンがあまりにうまかったため、家電雑誌からコラムを依頼されたほどの手練なのだ。家電解説とラップ解説に定評のあるラッパー。もしかしたら、今回はスタジオゲストにKennyDoesを招いたほうが良かった? 彼解説によるヒップホップの歴史も、いつか拝聴してみたい。

“ターンテーブル世界一”のスゴさは、どうやれば伝わるのか?

 最後に、“ターンテーブル世界一”松永が凄テクを披露してくれた。こういうシチュエーションを与えられる松永をよく見るが、いつも同じ課題がつきまとう。さまざまなテクニックをあまりにサラッとこなすため、スゴすぎて逆に何がスゴいのか素人にはよくわからないのだ。イヤホンで聴けばとんでもないことが起こっているのは伝わってくるし、そんな松永を見るRはいつも通りニコニコ顔なのだが、少し不憫に感じなくもない。

 やはり、KennyがRを分析したように松永も他のDJが解説するワンクッションが必要だったのではないか? 「褒められたい!」とモチベーションを持つ松永なのに、結局のところ、今回彼を褒めたのはRとAyase(YOASOBI)だけであった。エンディングで褒められ足りなさそうだった松永の反応も無理はないというか。

 ちなみに、本日放送の『関ジャム』は総集編。こちらにもCreepy Nutsは登場するようだ。

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2021/09/26 19:00
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