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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > とにかく明るい安村の言葉の空白

とにかく明るい安村「東京ってスゴい」「こんなことができる」にある言葉の空白

大悟「だから『東京は悪い』じゃなくて、『東京はスゴい』のよ」

 とにかく明るい安村のネタ「東京ってスゴい」に惹かれるのは、どういうことだろう。『有吉の壁』(日本テレビ系)で披露されてきたこのネタ。海パン一丁の安村が「東京ってスゴい 東京ってスゴい」と繰り返し、奇妙なダンスを踊りながら、「北海道の 田舎の 控えめでおとなしかった俺が 東京に来て 20年経ったら 恥ずかしくもなくこんなことができる」「小4のとき 親が離婚して おばあちゃんに育てられた俺が 東京に来て 20年経ったら 恥ずかしくもなくこんなことができる」などと歌う。

 北海道で生まれ育ち、ベンチ要員だったものの甲子園の出場経験もある安村。そんな彼が、友人に誘われて上京し、芸人になり、今では裸でテレビに映る。腹の贅肉を揺らし、息を切らしながら歌い踊る。そんな安村のドキュメンタリーが重なるパフォーマンスが、悲哀を帯びたおかしみを生む。ひとまず、そう言えるだろう。

 もう少し考えてみたい。安村は、16日の『クセがスゴいネタGP』(フジテレビ系)でこのネタをロックバージョンで披露していたのだけれど、そのとき千鳥の2人とゲストの井森美幸がネタ終わりにこんなトークをしていた。東京に出てくると、知らない間に自分が変わっていってしまう。そのことに、自分ではなかなか気づけない。自分が変わったのではなく、東京が自分を変えさせているのだ――。そして、大悟が語る。
 
「変わったことが悪いことでもないのよ。だから『東京は悪い』じゃなくて、『東京はスゴい』のよ」

 なんだか、「東京ってスゴい」に惹かれる理由がさらにわかる気がした。「スゴい」という言い方には、とても曖昧だ。何がスゴいのか、スゴいからなんなのか、良いのか悪いのか、何も語っていない。「恥ずかしげもなくこんなことができる」の「こんなこと」もそうだ。それがどんなことなのかは、言葉では何も語られていない。

 そこには指示内容も価値判断もなく、ただ、言葉の強さがある。そんな空白の言葉に、東京に暮らす人も、そうでない人も、私たちはそれぞれ自分の人生の一端を投影してしまうのだろう。

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