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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 荒井晴彦監督『火口のふたり』 なぜ映画はヌードを撮るのか?

荒井晴彦監督『火口のふたり』 なぜ映画はヌードを撮るのか? モラルや常識を剥ぎ取り映し出すむき出しの〝生〟

この世の彼岸と此岸で描く荒井監督のエロスの演出技法

 そして、この作品に映し出される裸体や、身体を重ねるシーン等、直接的ではない部分にエロティシズムを感じたのは、きっと私だけではないはず。

 大きく例を挙げると、賢治と直子が最後の夜に見る西馬音内盆踊り。荒井監督ご自身がこの映画を制作するきっかけとなった秋田県恒例の盆踊りだそうで、この西馬音内盆踊りのシーンを取り入れるため、福岡が舞台の原作から秋田に変更したとのこと。踊り手は布頭巾や編み傘で顔が覆われているため、性別や年齢も分からない。草履の擦る音を静かに鳴らしながら列を成し、しっとりと踊る姿は異様な空気感で、そこにエロスを感じるのです。

 先程2人以外の人間が皆亡霊のように見えると話しましたが、この盆踊りは別名〝亡者踊り〟とも言われているらしく、あの世とこの世の境目に2人が迷い込んでいるような感覚が、この場面からもはっきりと感じられます。作品全体に、この西馬音内盆踊りが織りなす異様な空気感が、ずっと流れているんです。

 もうひとつが、富士山の火口の写真。麓から山頂までを横から見た富士山ではなく、火口部分を空撮した大きなポスターが登場します。あまりの迫力に少しばかり恐怖を感じると共に、一体その黒くて暗い穴の奥底はどうなっているのだろうという興味に惹かれる。吸い込まれそうな感覚に駆られる富士山の存在感に、エロスを感じます。

 西馬音内盆踊りのように「顔が〝見えない〟」富士山の火口のように「奥底が〝見えない〟」といった、全部を曝け出していない状態にエロスを感じるというのは人間の本能であり、私が先日のグラビア撮影の仕上がりを見ても感じたことでした。

 今回露出を増やしたとお話しましたが、肌面積が多いことに比例して色っぽさが増すわけではないんですよね。それよりも、例えば衣装のワンピースからちらりと胸元が見えたりだとか、ちょっとした自然体の隙を感じられたほうが、断然色っぽい。妄想が掻き立てられる余白が残っていたほうが、上質で奥行きのあるエロスの表現だと感じるのです。

 つまりこの作品においてのヌードシーンでは、モラルや常識等、今の瞬間以外の余計な考えを全てを剥ぎ取り真の〝生〟を見出す、人間本来の姿が表現されていて、対して直接的ではない部分からエロティシズムを表現しているように私は感じました。

 行き先の分からない現代社会の中で、人は常に未来を想いながら生きています。

 しかし、もし、富士山が噴火したら……明日がないとしたら……私達はこの瞬間をどう生きるでしょうか。本能の赴くままに欲する2人の姿は、最も人間的で、でも、絶対こんなふうに全てを投げ出すことなんてできないから、ちょっとだけ羨ましくも感じるのでした。
 
 この連載で選ぶ作品は、キネマ旬報ベスト1位から選出していくという決まりのもと執筆していて、偶然今の心境に合っていると思ったので今回この『火口のふたり』を鑑賞しましたが、もしこの決まりがなかったら、この作品を観ることは一生なかったかもしれません。

 正直、一般の映画では意味のないヌードシーンとなっている作品も少なからずあると思います。視覚的な刺激にしかならない、単純な表現に見えてしまうものもある。しかしこの『火口のふたり』のように、ヌードの必需性を強く感じられる、とても良質な作品もある。今後私が演者として、そういった作品に出会うかは分からないですが私自身も、表面的な部分だけ見て毛嫌いするのではなく、自分のセンスと判断力を磨いていくことが、何よりも大切だなぁと思いました。

 とは言いましても、かなり濃厚で生々しい作品なので、鑑賞する際には、おひとりの時間に(笑)。是非ご覧になってみてください。

宮下かな子(俳優)

1995年7月14日、福島県生まれ。舞台『転校生』オーディションで抜擢され、その後も映画『ブレイブ -群青戦記-』(東宝)やドラマ『最愛』(TBS)、日本民放連盟賞ドラマ『チャンネルはそのまま!』(HTB)などに出演。現在「SOMPOケア」、「ソニー銀行」、「雪印メグミルク プルーンFe」、「コーエーテクモゲームス 三國志 覇道 」のCMに出演中。趣味は読書、イラストを描くこと。Twitter〈@miyashitakanako〉Instagram〈miya_kanako〉

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【アミューズWEBサイト公式プロフィール】

みやしたかなこ

最終更新:2021/09/20 18:00
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