『レミニセンス』はコロナ禍では他人事じゃない「想い人への執着」の映画だった
#ヒュー・ジャックマン
ヒュー・ジャックマンがダメな役にもハマる理由
そんな決して褒められたような人物でない主人公を演じるのがヒュー・ジャックマンというのは、間違いなくベストなキャスティングだ。アメコミ映画のヒーロー「ウルヴァリン」役が特に有名なスター俳優であるが、意外にもダメ人間や悪役も多く演じてきているのである。
例えば『リアル・スティール』(11)ではダメダメな親父であったし、『チャッピー』(15)では腕力で相手をねじ伏せる悪役を、『バッド・エデュケーション』(19)は横領に手を染める情けなくも哀しい役を演じており、それらにも見事にハマっていたのだ。
中でも注目は『PAN ネバーランド、夢のはじまり』(15)だろう。こちらもヒュー・ジャックマンが演じるのは悪役だったが、まるで「殺されることを願っている」ような、矛盾を抱えたキャラクターになっていた。善人で優しそうに見えるルックスがあってこそ、ダメだったり悪どいことをするギャップが際立っていて、それでもなお「魅力のある人物」であるがゆえに強烈なインパクトがあり、ほんのわずかな表情の変化で複雑な心境を伝えられる、ヒュー・ジャックマンはそんな俳優でもあるのだ。
そして、ヒュー・ジャックマンが筋肉隆々のセクシーな人物であり、その「笑顔」がどこか憂いを帯びていて「味方になってあげたくなる」ことも事実。『レミニセンス』の劇中でどれだけダメダメで、美女に入れ込んでいたとしても、ちゃんと応援したくなる、感情移入できる主人公になっていたのは、間違いなくヒュー・ジャックマンの存在感と演技力の賜物。今回は、その肉体を十二分に活用した格闘シーンにも注目してほしい。
コロナ禍でこそ響く世界観
本作のさらなる魅力になっているのは、「水没しかけている街」という世界観だ。イタリアの水の都ヴェネツィアをどこか思わせ、その終末感漂う光景は退廃的かつ美しい。さらに海面上にある線路を列車が進んでいくという画もあり、それは宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(01)にはっきりオマージュを捧げているのだという。
このディストピア的な世界観は、前述した「想い人への執着」とも不可分な要素でもある。水没しかけ終わりを迎えようとしている世界で、誰もが未来への希望が持てないでいるからこそ、過去の記憶を追体験する商売が成り立っている。いわば全人類が「過去に耽溺するしかない」絶望的な状況に陥っており、主人公が美女と好き合うことができた過去の希望に執着するのもやむを得ないと、より感覚的に理解できるのだ。
この世界観は、コロナ禍で先の見通しが立たない現実ともリンクしている。「以前のようにはできないこと」があまりに多い今では、「昔は良かった」と過去ばかりに思いを馳せてしまうこと、それこそ想い人と愛し合うことだけを希望にしてしまうというのは、誰にとっても他人事ではない。だが、『レミニセンス』の劇中では、そんな絶望的な世界での(それが幻想であろうとも)希望を提示している。それは主人公と美女が話し合う「幸福な物語」についての対話から、はっきりと伝わることだろう。
『レミニセンス』
9月17日(金)全国ロードショー
■出演:ヒュー・ジャックマン(『グレイテスト・ショーマン』『ローガン』『レ・ミゼラブル』)、レベッカ・ファーガソン( 『グレイテスト・ショーマン』『 『ミッション・インポッシブル』シリーズ)、タンディ・ニュートン(「ウエストワールド」)、ダニエル・ウー(『トゥームレイダー ファースト・ミッション』)
■製作:ジョナサン・ノーラン(『メメント』原案、『インターステラー 』脚本)、リサ・ジョイ
■監督:リサ・ジョイ(HBOドラマ「ウエストワールド」プロデューサー)
■原題:REMINISCENCE
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