生活保護不正受給を「国を相手にしたシノギ」とのたまうヤクザ…その不遜ぶりに思わず唖然
#暴力団 #ヤクザ #山口組 #覚醒剤
現代ヤクザのリアルな声を集めたノンフィクション『令和ヤクザ解体新書』(佐々木拓朗・著)。ここには、ヤクザ報道に注力する実話誌などの媒体には載ることがない、等身大のヤクザの姿が収められているが、その姿は一般市民が違和感を覚えるような極端さを持ちつつも、人間味が溢れ、どこかユーモラスでもある。そんな『令和ヤクザ解体新書』の発売に際して、当サイトでは、同書未収録の個性豊かなヤクザの実像を紹介する。
今回は、生活保護の不正受給を“シノギ”とする男。その堂々とし過ぎる態度に、筆者も呆れる場面が多々あったようだが――。
これがワシの唯一のシノギやねん
「組には、渡世名で登録しとんねん」
精神安定剤か睡眠薬でも投与しているのだろうか。気だるそうにそう話す50代の組員の呂律は心なしか悪い。あらためて述べるまでもなく、生活保護を受給するにあたっては、反社会的勢力に所属していてはならないことは、はっきりと明記されている。それを破れば、不正受給していたとして摘発されることになる。だが、男は生活保護を受給する、れっきとした組員というのである。
「認識の問題とちゃうんか……」
男が嫌そうに顔を歪めたが、認識の問題などではない。ダメなものはダメなのだ。
「くれるもんはしゃあないがな。お前らだって、ちょっとした飲み食いをごまかしてやな、会社に経費として落としたりするやろう。それとおんなじやないか。誰だって、それくらいのことはやっとんねん」
取材の必要経費である飲食代と不正受給を同じにされたらたまったもんじゃないが、そこよりも引っかかったのは、自分への呼び方だ。確かに男のほうがだいぶ歳上だ。だからと言って、初対面の人間に「お前」呼ばわりされる筋合いはない。
ムッと頭にきたが、この人間と議論しても仕方ない。気を取り直して、質問を変えることにした。
「役所の人間にヤクザってバレへんのかって? そりゃわからへんがな。現に不正受給で逮捕される人間は、年がら年中いとんねんから、ワシだってそこはわからん。ただ神経はつことるで。これがワシの唯一のシノギやねんからな。パクらたら、しまいや。生活保護は止まる、ワンルームは出ていかなあかん、会費も払われへんてなったら、カタギなって働くしかなくなってまうがな」
当たり前ではないか。働ける人間は誰だって働いているのだ。どこの世界に、生活保護費を組の会費に充てる不届き者がいるのだ。しかし、男によれば、不正受給しながら、渡世名といわれる、本名と違う名前を使い、現役の組員を続けている人間は結構いると言うのだ。
「組の人間らはもちろん(不正受給のことは)知っとんで。知らんふりしてるけどな。一応、親分にだけは知られんようには、みなしてるわな。生活保護費から会費払っとんことを知ってたら、親分らまで犯収法(犯罪収益移転防止法)でパクられてまうからな。それにな、ワシらは国を相手にシノギかけとるから、お前が考えてるより大変やねんど」
また「お前だ」。ただ今度は、呼ばれ方に頭に来たというよりも、吹き出しそうになった。不正受給をもってして、国を相手にシノギをかけているとは、大きく出たものである。
「本部にガサ(家宅捜索)が来れば、ヒネ(刑事)にわからんように、事務所内から脱出せなならんし、周りにもヤクザやってるってバレんようにせなあかんしな。だいたい不正受給でパクらてんのは、役所へのチンコロやからな。それにな、12万ちょっとのゼニで、そこから毎月3万は組に入れんとあかんのやな。当番だってあるしやな。身分を隠しながら、ヤクザをやるのも楽やないねんど」
国を相手にシノギをかけている割には、言うことがめっぽう小さい。お前呼ばわりされて頭に来たことが、だんだんとバカらしくなってきた。では、なぜそんな苦労してまでヤクザをやっているのか。ヤクザさえ辞めてしまえば、市役所の職員に怯えることもないではないか。
「辞めさせてくれへんからやんけっ」
ごもっともである。男は吐き捨てるように口にしたのだった。
(文=佐々木拓朗)
『令和ヤクザ解体新書 極道記者が忘れえぬ28人の証言』
佐々木拓朗/定価1400円+税/amazon、全国書店で発売中
現代アウトローの実像を浮き彫りにした衝撃ノンフィクション。暴対法、分裂抗争、暴力団排除、コロナ禍……「これくらい世の中が変わってくれた方が、まだ食うていける。これがワシらの実情や」。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事