松坂桃李と古田新太の男泣きで魅せる! 狂った運命の歯車が突き刺さる映画『空白』
#松坂桃李 #古田新太
俳優・松坂桃李の役作りは、最近ますます凄みを増している。
そう感じさせるのには役の幅広さの中に、ある共通する魅力があるからだ。しかもそれがすべて同じ演技に見えるというわけではなくて、全く異なるキャラクターの中に(松坂の本質にあると思われる)人間らしさを感じとることができる点だ。
例えば、現在公開中の『孤狼の血 LEVEL2』では、主人公・日岡を演じている。前作でエリートの新米刑事だった日岡が、裏社会や警察内部からなめられないように、外見が極端に変化している。
しかし、いくら外見を変えても根は優しい日岡だけに、その優しさが垣間見えるシーンがある。そこが日岡の人間的な魅力でもあり、時に弱点となる場合もあることで、作品全体を通したアクセントともなっていた。
その効果もあってか、役所広司主体であった前作の雰囲気は保ちつつも『2』は、また違ったテイストの作品に仕上がった。もちろん、作品自体がよくできていた点も大きいが、この独特のバランスのキャラクターを作り出すことができたのは、松坂の力量によるものだ。
『居眠り磐音』(2019)や『あの頃。』(20)でもそうだったが、表面上に出さない内なる想いをセリフで説明するのではなく、表情ひとつで表現するのが非常にうまい俳優だといえるだろう。
そんな松坂の独自性が活きていながら、いや活きているからこそ、人生の不条理さを感じずにはいられない。心から打ちのめされる映画『空白』が2021年9月23日から公開される。
(あらすじ)
スーパーで万引きしようとして店長(松坂桃李)に見つかり、追いかけられた女子中学生・花音(伊東蒼)が、逃走中に車に轢かれて死んでしまう。少女の父親・充(古田新太)はせめて娘の無実を証明しようと、店長を激しく追及するうちに、その姿も言動も恐るべきモンスターと化していく。
製作のスターサンズは、『MOTHER マザー』(20) 『ヤクザと家族 The Family』(21)といった、なかなか攻めた内容の作品を連発している映画会社である。
劇映画だけではなく、ツイッターのアカウント凍結が問題となった『パンケーキを毒見する』(21)や、コロナ禍に苦しむ日本の中にあるかすかな光を映し出した『人と仕事』(10月8日公開予定)といったドキュメンタリーにも力を注いでいる。
松坂がスターサンズの作品に参加したのは、19年の『新聞記者』以来となる。しかも同作での演技が認められ、その年の日本アカデミー賞主演俳優賞を受賞したが、『空白』でも21年の日本アカデミー賞も狙えそうなクオリティの作品である。
そんな松坂とスターサンズの再タッグは、いい意味で後味の悪さを残すことは、聡明な鑑賞者なら予想がつくかもしれないが、そこに古田新太という強烈な苦みをもつ俳優を加えることによって、本作が描き出したのは、「絶望」と「救い」、そしてあらゆる立場や視点からの「こうなると思っていなかった……」という心の叫びである。
万引した末に車に轢かれて死亡した花音本人もそうだろうし、追いかけたスーパーの店長、車の運転手など関わった人たちの「こうなるとは思っていなかった……」が偶然交差し、物語は悲劇に変わってしまう。ちょっとしたタイミングの違いが、一生引きずる大事件にもなってしまう。全ての登場人物に無駄がなくそれぞれが役割を果たすことで、濃密な群像劇が展開されていく。
例えば充は、昭和の頑固親父のように口も悪く、「自分が中心で地球が回っている」とでも思っていそうで、圧力を他人にかけていることも感じないような典型的な傲慢な人物。ただし、充自身も娘が突然、亡くなってしまうなんてことは想像もしていなかったし、当たり前に存在していると思っていたからこそ、日ごろ大雑把になりがちな扱いだったとしても、父親として娘を想う気持ちに嘘はなく、ただ不器用すぎただけ。行き過ぎていただけ……。
今さら、後悔したところで戻るはずもない娘への伝えられない想いはどこに向かっていくのだろうか……となったときに、ここにもまた「こうなると思っていなかった……」が凶器にも、狂気にもなり、また自分にも突き刺さってくる。それを古田は怒りと悲しみのバランスが崩れた様な表情で見せている。
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