瀧内公美主演の社会派ミステリー『由宇子の天秤』真実の行方を決めるのは、はたして誰なのか?
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最適化された社会がもたらす危険性
主人公・由宇子を演じるのは、震災風俗嬢を演じた『彼女の人生は間違いじゃない』(17)、婚約者がいながらも従兄弟との火遊びに熱中する『火口のふたり』(19)での演技が絶賛された瀧内公美。したたかさと危うさとの境界線上で揺れ動くキャラクターを演じると、抜群にハマる旬の女優だ。塾でぼっち状態の女子高生・メイ(河合優実)に温かい思いやりを見せる一方、カメラを手にすると毅然とした態度となる。ひとりの人間が持つ多面性を、自然に演じ分けられるのが女優・瀧内公美の魅力だろう。
ドキュメンタリーの取材を続ける由宇子は、ネットリンチに遭った遺族たちとの信頼関係を築き、閉ざされていた心の扉を開けていく。その一方、自分が犯した過ちを認めず、トボけて済ませようとする父・政志やテレビ局側に迎合しようとする下請けプロデューサーの富山(川瀬陽太)に向かって、動画機能をオンにしたスマホを突きつける。その場しのぎの嘘や詭弁は許さない。優しい顔から、表情が一変する。由宇子の顔は阿修羅像を思わせる。
オリジナルストーリーである本作を撮り上げたのは、注目の新鋭・春本雄二郎監督。松竹京都撮影所で助監督を経験し、自主映画『かぞくへ 』(16)で監督デビューを果たした。監督2作目となる本作は、ベルリン映画祭など多くの国際映画祭に出品され、高く評価されている。
「本作を企画したきっかけは、2014年に起きたネットリンチ事件でした。いじめた側の少年の父親と同姓同名の人物がネット上で実名や住所を晒され、バッシングに遭ったというものでした。自分がもし同じ立場だったら恐ろしいし、どうして自分の知らない人たちをそんなに攻撃できるのだろうかと興味が湧いたんです。その後、デビュー作『かぞくへ 』を完成させ、2作目を作ることになったのが2018年。加害者の家族がバッシングされるという内容の映画はすでに作られるようになっていたので、さらに現代にアップデートしたものにしようと考えたんです。その頃から世界が二極化され、分断化されていることが問われるようになってきていたので、高度に情報化され、最適化された社会の中で、自分が興味のない世界のことには想像が及ばなくなってしまったことへの違和感を題材にしてみたいと思ったんです」(春本監督)
春本監督の分身でもある主人公・由宇子役には、春本監督のデビュー作『かぞくへ 』を観た瀧内本人が、劇場で観客を見送っていた春本監督に直接売り込んできた。由宇子の父親にはベテラン俳優としての味わい深さを感じさせる光石研。日和見的な下請けプロデューサー・富山には、まさに適役の川瀬陽太。さらにネットリンチの被害に遭う遺族側に『岬の兄妹』(19)での熱演が光った松浦祐也と和田光沙。他にもインディーズ映画界の実力者らがキャスティングされており、どのシーンも非常に見応えがある。
映画後半のキーパーソンとなるのは、父子家庭で育った女子高生メイを演じる河合優実。この夏の話題作『サマーフィルムにのって』(公開中)にも出演している、期待の若手女優だ。春本監督が主催するワークショップに参加し、抜きんでた表現力を見せていたという。メイの持つナイーブな二面性が、由宇子たちを大きく振り回すことになる。
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