実はヤクザではご法度の「覚醒剤」…それでもシャブ屋をやめなかった男の言い分
#暴力団 #ヤクザ #山口組 #覚醒剤
現代ヤクザのリアルな声を集めたノンフィクション『令和ヤクザ解体新書』(佐々木拓朗・著)が発売された。ここには、実話誌などヤクザ報道に注力する媒体には決して載ることがない、等身大のヤクザの姿が収められているが、その姿は一般市民が違和感を覚えるような極端さを持ちつつも、どこかユーモラスでもある。そんな『令和ヤクザ解体新書』の発売に際して、ここでは同書未収録の個性豊かなヤクザの実像を紹介する。そのひとりが、覚醒剤の売買を専門とするヤクザ、いわゆる「シャブ屋」である。
シャブでパクられた破門!? しかしシャブ屋は跋扈する
一般市民の認識とはかけ離れているかもしれないが、「ヤクザは覚醒剤に手を染めることを禁止している」というのがヤクザ業界側での認識である。それは、業界における最大組織である山口組がシャブを扱うことをご法度にしているからだ。
だが、実際はどうかといえば、覚醒剤の売買を取り仕切っているのは、まぎれもなくヤクザが多い。
「ワシらは言うたら何でも屋や。隙がちょっとでもあれば、入りこんで銭にせな、メシ食うていかれへん」
そう話すのは、これまで6度の服役経験を持つ某組織の中堅幹部。ヤクザはあくまで「生き方」であり、職業ではないわけだから、安定した収入が組から補償されているわけではない。いろいろな知識を身につけて、暴力をバックボーンにしながら、一般社会の隙間に入り込んでいかなければ、生活ができないのだと男は話す。だが、その代償として、6度の服役生活を経験することになったということだろう。それでも男には、安定的な収入源があった。
「あんまり大きい声じゃ言えんけど、シャブや」
むろん、男が所属する組織でも覚醒剤は御法度である。もしも、組織にバレたら、処分の対象になるのではないのか。その問いに、男は鼻で笑ってみせた。
「誰がバカ正直に組で『ワシ、シャブいろてまんねん』て言うねん。そんなもん言うわけないやろが。ただな、みなわかっとんで。誰がシャブをいじってるかなんてな。西成なんか見てみいや。それこそ、売り子にもテリトリーがしっかりあんねんからな。ここの立ちんぼは、どこそこの組の誰々。あそこの場所は誰々ってな。きちんと区画整理されとんや」
そこは、繁華街で呼び込みをするキャッチ(客引き)と同じように、組織同士のパワーバランスによって綺麗に線引きされているというのである。そして、そのパワーバランスはどう決まるかというと、やはり代紋がものをいうようだ。
「すべてはオノレの甲斐性や。勘違いされとるけど、みかじめなんてもんは何も飲食店ばっかりやないんやで。呼び込みの兄ちゃんらと一緒で、きちんと線引きされた場所で、シャブをさばかすにも、みかじめは存在すんねん。それでもちろん揉めることもある。だからいうて、いちいち組にお伺いなんてたてんし、あくまでシャブは御法度やねんから、なおさら伺いなんて立てれんしな。全部が甲斐性や。いちいち問題視になんてせえへん。それが問題視なんのは、パクられたときや」
実際、警察に逮捕され、氏名が紙面などに掲載されれば、即刻破門などの処分が下されるという。逆にいえば、組織の誰しもが覚醒剤を触っていることに気づいていても、そういった事態にならない限りは、問題になることはまずないという。
「考えてみいや。綺麗事ばっかり言うてやで、会費も払えん、銭も持たんもんよりは、組の規則には触れとってもキチンと会費収めて、若い衆を連れとるヤツのほうがなんぼか組のためになるやろう。あくまでシャブで稼いだ銭です、なんて言わんねんからな。もちろん組が暗に認めていても、パクらたら処分される。ワシもこれまで3回処分されとる。それでも懲役終えたらまた復縁や。それで細々とまた商売を始めて、シャバの情勢を見ていくんや」
出所後はまずは細々とシャブを売る
商売といっても、大根やキャベツを売るわけではない。細々といいながらも、売るのは覚醒剤なのだ。ビジネスとしては、刑務所の塀の上を歩いているようなものである。
「だから、細々とやるんやないか。おおっぴらになんかせんとな。量を扱って、横から横で利を抜くのが一番ええけど、量を扱っているときに万が一があってみ。営利がついて懲役も長くなるやろう。しかも、サツに言えん取り引きやから、刑務所から帰ってきたばかりの身体にはリスクが高い。しゃあから、手広くせんと新規を増やさずに、小売りでも、信頼できる先からワシ価格の値で引いて、昔からの顧客に細々と売るんや。それでも、パクらるときはパクられるしな。絶対安全なやり方なんかない。リハビリ期間は用心しながら、たまに回ってきた安全な恐喝もやったりして、身体がシャバに段々となれてきて、小銭できたな思ったら、ど~んと1発やるのがワシの出所後ルーティンみたいなもんやな」
日本語の使い方をいろいろと間違っているようだが、簡単に解説すると、彼は覚醒剤を安値で買い、そこにいくらかを乗せて、そのまま買い手へと売るという。大量に仕入れて、それを小分けにして多くの人間に売るようなことをするより、手間もかからずに、リスクは少なくて済む。万が一、買い上げた段階で逮捕されてしまえば、覚醒剤の営利目的の所持として、刑期も長くなり、覚醒剤は押収。扱っている量が多かったり、入手元などをしゃべれなかったりと不利な材料が揃うと、さらに罪が重くなる。つまり、踏んだり蹴ったりな状況になるわけである。
そんな取引は、刑務所から帰ってきたばかりの身体には負担が大きいため、ほかから依頼を受けたリスクの少ない恐喝などを取り入れつつ、まずは細々と覚醒剤の商いに精を出すというのである。もちろん、男が何を持って安全と言っているかはわからない。
「それだけやないで。ウチはだいたい出所後、3カ月は当番免除やけど、シャブで帰ってきて復縁した場合は、当番の免除も1カ月や。ま、いまは事務所も使用制限で使われへんから当番もないし、昔に比べたら、懲役も含めて楽なもんやけどな。ワシらの頃ゆうたら……」
日本語の斬新な使い方といい、聞く分には面白いがこちらにも時間がある。まだまだ喋り足りなさそうな雰囲気をありありと感じつつも、この時は、取材を引き上げることにしたのだった。
取材後、あらためて感じたのは、この男の生き方は、ある意味、裏社会の住人ならではのものだろうが、その言葉は建前と本音を超越していると言えるのではないかということだった。
(文=佐々木拓朗)
『令和ヤクザ解体新書 極道記者が忘れえぬ28人の証言』
佐々木拓朗/定価1400円+税/amazon、全国書店で発売中
現代アウトローの実像を浮き彫りにした衝撃ノンフィクション。暴対法、分裂抗争、暴力団排除、コロナ禍……「これくらい世の中が変わってくれた方が、まだ食うていける。これがワシらの実情や」。
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