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ANARCHYが示した“俺”イズム

邪魔なノイズは抑止する ANARCHYが歩む新たな物語

紆余曲折を経たANARCHYの心中

邪魔なノイズは抑止する ANARCHYが歩む新たな物語の画像3
(写真/cherry chill will.)

――新作『NOISE CANCEL』についてですが、このコロナ禍における制作環境はどのようなものでしたか?

ANARCHY 時間がありあまる状況だったんで、いくらでも曲はできた。バダサイ(舐達麻のBADSAIKUSH)とのEP『GOLD DISC』も作れたし。「さて、ソロアルバムを作るか」ってなったときには、もう曲ができてた感じですね。中には2年前に完成してた曲もあるけど、「こういうアルバムを作りたい」って気持ちの曲が集まっていって、不足してる曲を新たに追加で制作していきました。コロナ禍で厄介だったのは、ライブができないこと以外は害はなかったかな。

――具体的に“不足していた”曲というのは?

ANARCHY 「Lisa」ですね。初心に返るじゃないけど、ゼロのANARCHYというか、指一本で作れるようなテクニックもなくチープな音なんだけど、ヒップホップを感じさせる曲。それこそ僕の一番の味なのかなとも思ってて。実際に「Lisa」はデビュー当時のANARCHYのような、曲のクオリティもラッパーとしてのテクニックも未完成の感じなんだけど、アーティストとしての表現力は確実に上がってるわけですよ。ファーストアルバム『ROB THE WORLD』(06年)は人生の25年間を詰め込んだ作品で、それ以降のアルバムは次のリリース期間までの自分を詰め込んできた。でも、今回は40年分の自分を詰め込むことができたと感じてます。外部の評価はさておき、自分としては『Dream and Drama』(08年)を超える作品ができたと思ってます。

――その外野の評価という言葉ですが、「NOISE CANCEL」というタイトルには、周囲から聞こえてくるノイズ(野次)をキャンセル(削除)する意味が含まれていると思ったんですが、実際は?

ANARCHY それもある。けど、周囲の意見を聞いてアルバムを作るわけではないからね。純粋に雑音を消して、ANARCHYの声に耳を貸してほしいって理由からです。実際にアルバムが完成して、ノイズキャンセルで聴いたときにひらめいて、そのまんまタイトルにした感じです。前回のアルバムが『The KING』だったんで、それを超えるタイトルはハードルが上がるだけだったし(笑)、ひらめく前までは結構ダッサいタイトルの候補もありましたけどね。

――メインストリームを踏襲したサウンドに身を委ねることも、オーセンティックなスタイルのサウンドもこなせるのがANARCHYくんの強みだと思いますが、メジャーを離れ独立後という意味では、今作が“新生ANARCHY”と呼べる作品にもなり得ると思います。

ANARCHY ここからもう1回始まる、イチからスタートする気持ちはあります。だからこそ、常に最高のものを作ろうと思っている中で、「あ、最高のアルバムを作ってしまったかもしれん」という感覚なんです。さっき話したように、うっさいおっさんをきちんとこなす上で、言葉で強要するんじゃなく、「ラップで歌う、音楽で伝えればいいやん」っていうひとつの回答を形にすることができたと思ってます。

――今回の収録曲でANARCHYくんを象徴する曲は「やりたい事だけやって生きる」だと思うんですが、逆に「Lisa」のように「夢は叶ったはずなのに/胸が痛いまだ」とラップする対極的な楽曲もある。本来であれば、こうした二面性はラッパーとしての矛盾と映る可能性もあるわけですが、それがマイナスにならないのがANARCHYなんだなと気づかされる側面もありました。

ANARCHY まったくの無自覚ですけどね。矛盾してる可能性とか考えたことないし、「どっちやねん」って聞かれても「どっちもできる」って感覚でしかない。アルバムなんだけど、1曲1曲が全部違うマンガみたいに捉えられたらありがたいです。それが僕の個性につながっていけばなおさら。今回のアルバムは初めて余るくらいの曲数があって、それを削っていく作業だったんですよ。「これ以上必要ない」で決めた9曲にした。これは今までのアルバムの中でも最小の数だし、そもそも自分が好きなアルバムがナズの『Illmatic』(94年/約40分)やマイケル・ジャクソンの『Thriller』(82年/約42分)なんで、長々と言わんくても十分に足りる、伝わると思ったんです。

――そこに加えて、王道のラブソング「ただのLOVE SONG」もあるわけで。

ANARCHY これはファーストの頃からRYUZO【編註:前述R-RATED RECORDSを主宰し、ANARCHYを見出したプロデューサー兼実業家】に言われてきたことで、必ずモロラブソングは歌ってきた。僕の中の決まりというか、(ウータン・クランの)RZAがメソッド・マンに言ってた「ラッパーのアルバムにはラブソングが1曲必要や!」って教訓を貫いてるんすよ。ただ、ラブソングは経験だけをリリックにすることはできないし、伝えたいこともなかなか出にくいんで、苦労しますけどね。みんながハマるような気持ちでいつも考えてます。

――ANARCHYくんが審査員を務めた若手ラッパーオーディション番組『ラップスタア誕生』(ABEMA)にも顕著でしたが、ANARCHYくんに影響されてラップを始める世代が増え、国内のラッパー人口の分母もだいぶ大きくなったと思いますが、今のこの現状をどう感じていますか?

ANARCHY ラッキーやな、って思ってますよ。僕が成り上がったとき、世代的にサッカーのフォーメーションでたとえたら、ワントップで戦う相手が誰もいなかった。同世代にSEEDAはいるけど、やっぱ悪役がいてヒーローが活躍する構図がないと盛り上がりに欠けるんすよね。でも今は若い連中の周りには戦える相手がいっぱいいる。キャラが増えてゲーム性も高まって、プロレスだって余裕でできますよ。ただ正直言うと、まだラップで喰らったヤツはいない。それは個人的に応援してるラッパーでも。もちろん、やってることは認めてるし、僕ができることならなんでもしたいと思ってるんですけどね。

――だからこそ、うるさいおっさんになる決断をしたわけですね。

ANARCHY うるさくはなりたくないけど、そういう面がありつつも、ラッパー仲間だけじゃなく、例えば地元の友達からも「健太くん(ANARCHYの本名)、今でもかっこいいことやってるわ」とか「あれでこそANARCHYや」って言われ続けたいじゃないですか。その気持ちを『NOISE CANCEL』に込められたと思ってます。言ってみりゃ「もう1回、ジェームス・ブラウンから聴け!」みたいなアルバムですよ。なので、「間違ってると感じることがあれば言ってこい。ディス待ってんぞ」ってスタンスです。偉そうな意味じゃなく、自分にしかできないことを形にしていくことでシーンが成熟していくと思ってます。ヒップホップのために何かできたり、ヒップホップが好きだからこそ責任を負っていこうと考えてるし、それができなくなったらANARCHYの価値はなくなると思ってる。だから、全員俺のことをリスペクトしろ! と言っておきます(笑)。

――最後に、「やりたい事だけやって生きる」のリリックで「面白いことは探し出せ」とラップしていますが、今やりたいこととは?

ANARCHY これまでに8枚アルバムを出したけど、ベスト盤はない。そもそもベスト盤には興味がない。サブスクで聴けるやん。だったらファーストからこれまでのベストな選曲で、歌い直したベスト盤を作ろうって思ってます。歌い直すだけじゃなく、リリックの内容や音程を変えてしまってもいいし、あの時の自分を今の自分で再構築したい。なんなら昔の曲で紅白に出てみたいじゃないですか。「素敵な曲ですね!」とか言われて、「10年前に作ってますけどね、この名曲!」とか言って。ヒップホップリスナーはもちろんだけど、一般層にも届く、ちゃんとした音楽を作りたいじゃないですか。それこそ子どもの教科書に載せられるくらいのものをね。

(文/佐藤公郎)
(写真/cherry chill will.)

ANARCHY(あなーきー)

邪魔なノイズは抑止する ANARCHYが歩む新たな物語の画像41981年、大阪府生まれ京都府育ち。95年にラッパーとしての活動を開始し、06年にファーストアルバム『ROB THE WORLD』を発表。14年にエイベックスとメジャー契約を果たし、19年には映画『WALKING MAN』で初の映画監督も務めた。
Twitter<@anarchyinfo
Instagram<anarchyrrr

 

 

最終更新:2021/09/06 12:28
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