カメラを介して結ばれたユージン・スミス夫妻 ジョニー・デップと美波が共演『MINAMATA』
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ユージンが撮り上げた現代の「ピエタ像」
ユージンのこの教えは、恋人たちにも言えることだろう。口づけを交わした者は、相手に魂を吸い取られる覚悟もしなくてはならない。暗室でユージンとキスを交わすアイリーンは、すっかりユージンに魂を奪われることになる。それは、ユージンも同じだった。
一方、化学工場を経営するノジマ社長(國村隼)は、自分たちの企業が日本の経済発展を支えてきたという自負の持ち主である。切れ者のノジマ社長は、ユージンが別れた妻や子どもたちに送る養育費に困っていることを知り、大金をユージンに手渡そうとする。水俣で撮ったフィルムと交換することが条件だった。お金は欲しい、でもカメラマンとしての魂まで売り渡すわけにはいない。
ユージンがお金では懐柔できないと分かると、次は直接的な暴力が待っていた。工場の前で抗議活動する反対派を取材していたユージンは、暴漢たちに襲われ、左目を失明し、神経障害による後遺症が残る重症を負う。このときの怪我が原因で、ユージンは寿命を縮めることになった。それでも、ユージンは写真を撮ることは止めなかった。
映画のクライマックスとなるのは、写真集『水俣 MINAMATA』の中でも特に有名な、胎児性水俣病患者である上村智子さんと一緒に湯船に入る母親の姿を撮ったカット「入浴する智子と母」を、ユージンが撮り上げるシーンだ。「現代のピエタ像」とも呼ばれるこの一枚の写真には、言葉にはならない母子間の深い愛情が凝縮されている。映画の中でも厳粛さを持って、このカットは再現されている。
ユージン・スミスは声にならない声をフィルムに焼き付けるカメラマンだった。自身の魂を削りながら、写真を撮り続けた。そんなユージンを、アイリーンは励まし、いたわり、足りない部分をフォローすることで、ユージン最後の写真集『水俣 MINAMATA』は完成した。
ユージンとアイリーンの間には、子どもはいなかった。だが、写真集『水俣 MINAMATA』は間違いなく、魂を交わしあった者たちの愛の結晶としてこの世に誕生した。
『MINAMATA ミナマタ』
監督/アンドリュー・レヴィタス 音楽/坂本龍一
出演/ジョニー・デップ、真田広之、國村隼、美波、加瀬亮、浅野忠信、岩瀬晶子、キャサリン・ジェンキンス 、青木柚、ビル・ナイ
配給/ロングライド 9月23日(木)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
c)2020 MINAMATA FILM,LLC (c)Larry Horricks
https://longride.jp/minamata
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