石戸諭が語るメディアの問題点、そして“良いニュース”とは?「ニュースは動詞に宿る。意見ではない」
#石戸諭
読み手にリテラシーを求めるのは違う
ーー昨今メディアリテラシーを誰もが持つべきとなっていますが、石戸さんはこの風潮にも本の中で釘を刺していますね。
メディアに多い、読み手にリテラシーを求めるというのは違うと思っています。たとえば食べ物で考えると、日本は気をつけて店選びをしなくとも、食中毒になる確率はものすごく低いレベルですよね。だからお店で食中毒になるかをいちいち気にしながら食べてはいない。僕はビールが好きだけど、ビールを飲んで上面発酵か、下面発酵かと調べる人なんてまれでしょ。多くの人は普通に飲んで美味しいで終わりますし、それで良いわけです。
知りたい人だけが調べればいいことなのに、なぜかメディア業界だけは「みんなが批判的に読解する力を身につけなければいけない」という話をしています。
ーー食べ物で例えると、外食業界が「食中毒の危険性のある店も多いですから、みんなリテラシーを高めて食中毒のお店は避けてください」と呼びかけることと同じで無責任ですね。
そうなんです。読者に僕たちが発信したものを批判的に読解してくださいね、というのはやっぱりちょっとおかしくて、僕はきちんとしたものを作って届けるので、読んでくださいねで十分なはずです。もう少し欲をいえば、僕が届けたものを、お客さんが買ったり、アクセスしたりして読んで面白いな、読んで元気が出たなと思ってもらえれば十分じゃないかと思うのです。
今、インターネットの業界でフェイクニュースが出てきているのは事実です。今のメディア状況で、デマやフェイクをゼロにするのは現実的な目標だとは思えません。それよりも、信頼できるニュースを継続的に発信してきたメディア、良いニュースを発信する側の書き手が市場を取っていないという問題もあるわけですよね。だから、大手メディアも僕みたいな小さなフリーランスも地道に読者を獲得していかないといけないと思うのです。
読者を獲得するときに大事なものは、きちんとクオリティーコントロールされているとか、面白いことです。「このニュースは正しいから」「間違っていないから」だけで引きつけようとしてもしようがない。そんなのは新聞社だったら当たり前の話です。世の中にゼロリスクはないので、間違うことはありますが、日々発行する新聞で訂正を出すことのほうが圧倒的に少ない。
逆にいえば、これだけ信頼ある情報を出してお客さんが取れていないなら、別のところに問題があると考えないといけないですよね。たとえば取材の質は高いかもしれないが、アウトプットの質に問題はないのかと。最近の新聞記事はやっぱり短すぎます。せっかく取材しているんだったら、もっと長く書きたいなと現役のときから思っていました。取材した出来事を最前線の記者が捨ててしまう功罪っていうのはもうちょっと考えた方がいいと思います。
自分たちで改善できる部分をおろそかにして、「正しい記事を書いたから読め」とか、「自分たちは間違っていない情報を出しているから、読者も間違いのない情報を手に入れてください」というのはちょっと上から目線な感じがします。
ーー石戸さんのいう「良いニュース」を発信するにはどういった視点が必要でしょうか。
本の中でかなりフィーチャーしましたが、新聞記者出身のアメリカの作家・コラムニストのピート・ハミルは「ニュースは動詞だ(News is a verb)」と言っています。その人間が有名であるか無名であるかは関係なく、その人間の動きの部分こそがニュースだということです。つまり人間が主役で、人間がやることに価値を見いだしていくのがハミルの流儀なわけです。「ニュースはオピニオンだ」、意見が主役だとは書いていません。
歴史を振り返ると過去の多くのノンフィクションの書き手や、優れたジャーナリストも、人間が何をやるかということにニュースの価値を見つけていました。今は、誰かが何か「言った」ことについてあれこれいうけれど、何を「やった」かこそが大事なんだと先人は書いてきたし、実践してきたのです。
僕はその歴史に連なりたい。「良いニュース」に、単純な意見は関係ないのです。書いている本人がどういう思想かは本来的にはどうでもよい。思想信条を超えて人々に届くもの、同じグループじゃない人たちにまで届くものが大事で、良いニュースにはそれが可能だと言いたいですね。
忘れてはいけないのが、世の中の大多数は政治的な立ち位置は是々非々、もしくは気にしていないということです。僕は大多数にアプローチするためには良いニュース、クオリティがしっかりしているニュースじゃないと売れないし、届けられない。世の中には、政治的な信条とは関係なく、知的好奇心が旺盛な人は結構いると思っていますが、往々にしてそういう人は取り残されてしまうのです。
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