【澤田晃宏/外国人まかせ】実習生の不正労働が横行する縫製業界のホワイト化を目指す監理団体の挑戦
#社会 #労働 #外国人まかせ
今治タオル騒動ほか相次ぐ縫製業の不正
井川代表には監理団体の代表、縫製工場の社長に加え、もうひとつの顔がある。外国人技能実習生の保護、支援活動をするNPO法人「労働相談.com」の副理事も務める。県内に限らず、全国の技能実習生の相談、保護活動をしている。
「縫製業は技能実習の中でも、もっとも不正行為の多い職種のひとつです。私の体感値ですが、全国的に見れば9割の縫製工場でいまだに不当労働行為がある。タイムカードを2枚用意し、残業代は500円といった会社は珍しくはない」
愛媛県今治市にある劣悪な環境の縫製工場で働くベトナム人実習生を取り上げたNHKのドキュメンタリー番組『ノーナレ』の放送をきっかけに、今治タオルの不買運動が起きるなど、縫製業の不正行為は後を絶たない。ベトナムのある送り出し機関幹部は、こう話す。
「縫製は人を募集しても、人が集まらない不人気職種の代表格。給料が安く、失踪も多いため、縫製業を扱いたがらない監理団体も多い」
井川代表が自身の工場で初めて実習生を採用したのは14年。外国人を奴隷のように扱う周辺工場を見ており、最後まで日本人の採用に固執した。
「90年代は技能実習生ではなく『研修生』という立場ですが、団体監理型の受け入れが始まり、県下で働く外国人が増えました。研修生は労働基準法を適用する必要がなく、研修手当として月に3万円程度。残業代は時給300円程度で、200時間の残業をしても10万円に満たないような働かせ方が横行していました」
そうした時代から外国人を雇う縫製工場では、法令順守の意識がとても低い。こうした経営者を排除することで、井川代表は業界全体のホワイト化・フェアトレードを目指している。
「アパレルメーカーや卸売業者を通さず、直接小売店から注文を受けたり、著名なインフルエンサーと共同で商品を製作したりして、加工賃の高い仕事を受注する縫製工場が増えてきた。サスティナブルな業界に変えていかなければならない」
現在、井川代表が運営する縫製工場アイエスジェイエンタープライズでは、10人の実習生が働く。
18年12月に来日したヂィア・ヂェンホンさん(45歳)は、中国大連市の出身。国内総生産(GDP)で世界2位の中国だが、地域によって賃金差が大きい。24歳から縫製関係の仕事に就くが、大連では経験豊富なヂィアさんでも月に4000元(約7万円)程度しか稼げないという。13歳の子どもがおり、「寮費を引いた手取りの賃金が約16~20万円あり、満足しています。日本で5年働いて、子どもの教育費などに使いたい」
ベトナム出身のグェン・ティ・タオさん(30歳)は、岡山県の縫製工場で3年間の技能実習をし、帰国した。
「300万円くらい貯金したいと日本に来たけど、残業がないと手取りは10万円を切り、思ったほど稼げませんでした。寮は8人部屋で、実習生が風邪をひいても病院にひとりで行けと言われるなど、働く環境もよくなかった」
グェンさんは日本の別の会社で働きたいと、アイエスジェイエンタープライズの技能実習3号(4~5年目)の技能実習生として再来日した。現在は個室を与えられ、洗濯機が壊れると、夜でも実習実施者の生活指導員が駆けつけ、翌朝には新しい洗濯機が準備されていた。
仕事が終わると、毎日、日本語検定3級(N3)の試験に向け、日本語を勉強する。実習生は19年に新設された在留資格「特定技能」で、実習後も5年間働けるようになっているが、現在、縫製業はその対象職種に入っていない。
特定技能が対象とする14業種の技能試験とN4を取得すれば、他業種なら日本で働き続けることができるが、 「縫製業を特定技能に入れてほしい。このまま、今の会社で働き続けたいです」
グェンさんは、最後にそう言葉を残した。
<連載リンク>
【澤田晃宏/外国人まかせ】コンビニ弁当を作る鳥栖のベトナム人とネパール人
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事