【澤田晃宏/外国人まかせ】実習生の不正労働が横行する縫製業界のホワイト化を目指す監理団体の挑戦
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ファストファッション定着と縫製工場の劣悪労働
同社の内ケ島圭祐社長は40歳と若く、出身は岐阜県だ。岐阜県は戦後、日本有数のアパレル産地として発展してきた。バブル期にはDCブランドブームもあり、県内繊維工業の出荷額は4395億円(91年)に達し、事業所数は2145社(98年)にまで増えた。
だが、2000年代に入ると、中国製品を中心とする安価な商品が流通し、海外からH&Mなどの低価格帯のアパレルブランドが相次いで日本国内に進出。国内でも卸売業者などを通さず、自社製品を海外の工場で生産するユニクロなどが勢力をつけた。
結果、岐阜県内の繊維業の工業出荷額は1464億円(15年)まで減少。事業所数は430社(19年)に激減した。91年に約52%だった衣類の輸入品の割合は、20年には約98%に達している。
ファストファッションの定着で縫製工場の加工賃が下がり続ける中、現場を支えたのが外国人だった。岐阜県既製服縫製工業組合の平嶋千里理事長は朝日新聞の取材に対し「ここ20年、我々の業界は技能実習制度に依存してきた」(19年3月25日付)と答えている。
ただ、その労働環境は劣悪だった。内ケ島社長は創業前の02年から7年間、岐阜県関市内の縫製工場で働いていた。内ケ島社長の働く縫製工場にも中国人技能実習生がいて、その姿を見てきた。
「休みは週に1回あるかないかで、ひどいときは残業時間が200時間を超え、それでも給料は手取りで12万円程度。タイムカードは定時で打刻し、残業代は適正な賃金が支払われていなかった」
だからこそ、自分が技能実習生を受け入れる際は、きちんとした労働環境を準備しようと思った。内ケ島社長は言う。
「上代(販売価格)が1万円以下の商品を扱っていては、収益となる加工賃が残らず、従業員に適正な賃金を払えない」
エトフェールでは、オーダーが100着以下の少量ロットの製品を扱う。上代が10万円以上するものも珍しくはない。
内ケ島社長が「日本人が働きたいと思えるアパレル産業にすることが夢だ」と話すエトフェールでは現在、グェンさんを含む2人のベトナム人技能実習生と、4人の中国人技能実習生が働く。
海外に支社のあるような大企業は自ら実習生を受け入れることができるが、実習生を採用する企業の約98%は「団体監理型」での受け入れだ。出入国在留管理庁と厚生労働省が所管する外国人技能実習機構から認定を受けた「監理団体」を通じ、実習生を受け入れる形になる。
監理団体には、技能実習計画が計画通りに実施されているかを監査したり、実習生を保護したりする責任がある。
内ケ島社長が監理団体に選んだのが、17年に監理団体許可を受けたばかりのMSI協同組合(岐阜市)だった。同組合には約30社が加入するが、エトフェールのような「ホワイト企業」以外の加入は認めていない。
監理団体は非営利団体に限られ、実習実施者からの監理費が主な収入源となるが、実習生ひとり当たりの監理費を相場より安い2万2000円に設定している。毎月の監理費が経営を圧迫し、実習生の待遇悪化につながることも多いためだ。
「当団体で技能実習を行うには、法令通りの労働環境にあるかはもちろんのこと、経営者の考え方や寄宿舎の状態など、とにかく審査が厳しい。だから、加入者がなかなか増えません」
MSI協同組合の井川貴裕代表理事(48歳)は、そう言って、苦笑いを浮かべた。ジャケットの左襟に、「SDGs」のピンバッジが付いていた。
SDGsとは、15年の国連サミットで採決された「持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」のことだ。
「働きがいも経済成長も」「人や国の不平等をなくそう」「つくる責任つかう責任」など、国連に加盟する193カ国が30年までの15年間で達成すべき17の目標が掲げられている。
井川代表は、こう語気を荒らげた。
「中国の人件費が上がったら、次はベトナムに。ベトナムも人件費が上がったら、次はミャンマーに。そうした焼畑農業をいつまで続けるのか。オーガニックコットン(綿)が毎年栽培され、生産者に適正な賃金が払われることで、産地と生産者を守り、持続可能な暮らしを送ることができるのではないか」
5月、アメリカ税関がユニクロ(ファーストリテイリング)製品の輸入を差し止めた。アメリカ政府は強制労働を理由に中国・新疆ウイグル自治区の生産団体が関わる綿製品の輸入を禁止していた。ユニクロはホームページで「弊社製品の生産過程において強制労働が確認された事実はありません」としているが、エシカルファッション[註:エシカルとは倫理的・道徳的という意味の言葉で、人や社会、環境に配慮した衣料品のこと]が注目されるなど、世界の潮流が変わりつつある。井川代表は「デフレ経済から抜け出せず、安ければいいと考える消費者が多いですが、その製品が労働搾取のないクリーンなフェアトレード商品なのか。少しずつ理解が広がれば、世の中も変わっていくはずです」と話す。
井川代表には、縫製業のアイエスジェイエンタープライズ(岐阜市)の代表という立場もある。先代の父のもとで、幼少期から日本の縫製業を見てきた。
例えば、3900円で買える日本国内製造のスカートがあったとする。生地代が1000円(用尺1メートル)で、縫製に1時間半かかったとして、人件費は1278円(岐阜県の最低賃金852円×1.5)、工場の固定経費も同額かかったとする。ファスナーなどの付属品400円にデザイン料など1500円を加えると、合計5456円。ここに送料や販売店舗の利益も乗る。アパレル商品の原価率は20~55%と幅広いが、平均的な33%で計算しても適正価格は1万6000円を超える。井川代表は、 「十数年前まではジーパンが1万円以下で買えることなどなかった。日常的に着る衣類を日本で作ろうとすると、適正な賃金を払うのは難しい」
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