山口組も他人事ではない――工藤会トップの死刑判決がヤクザ社会に与えた影響
#暴力団
分裂騒動で抗争が続く山口組
2015年8月27日、六代目山口組で分裂騒動が発生。離脱した直参らで神戸山口組が結成された。その間、いくつもの衝突が繰り返され死者が出る事件も発生。特に、2019年10月に六代目山口組の髙山清司若頭が服役を終えて社会復帰した前後に激化した。
同4月、兵庫県神戸市内で神戸山口組直系の五代目山健組若頭(当時)が、六代目山口組直系の三代目弘道会の傘下組織組員らに刃物で腰などを刺されて瀕死の重傷を負った。
同7月、兵庫県神戸市内にある弘道会の関連施設前で、弘道会の傘下組織組員をスクーターに乗った人物が銃撃。同年末、実行犯として山健組の中田浩司組長が逮捕された。
同10月には、兵庫県神戸市内にある山健組本部近くで、山健組の傘下組織組員2人が、弘道会の傘下組織幹部に射殺された。
翌11月には、兵庫県尼崎市内で神戸山口組の幹部が、六代目山口組直系の二代目竹中組の元組員に自動小銃で銃撃され、複数の弾丸を全身に浴び絶命している。
これら4件のうち、山健組若頭刺傷事件の被告2人には懲役11年と懲役9年、神戸山口組幹部射殺事件では無期懲役の1審判決が出された。山健組組員射殺事件は被告が拘置所内で病死したことによりピリオドが打たれた。残る弘道会傘下組織組員銃撃事件は、画質の悪い防犯カメラ映像くらいしか証拠が無いとの話もある。東海地方に本拠を構える組織の幹部は語る。
「工藤会の裁判では物的証拠が無いうえに、野村総裁と田上会長は一貫して事件との関わりを否定し無実を主張したのに、すべて退けられ厳罰が下された。弘道会傘下組織組員銃撃事件でも、検察側が証人を多数召喚して被告に不利な発言を引き出す可能性は高い。場合によっては、神戸山口組の井上組長の関与まで認定される恐れがある」
末端組員が起こした事件で、六代目山口組の司組長や髙山若頭が厳罰に処される展開が、工藤会の判決で現実味を増したとも言える。
また、ヤクザ組織はこうした判決と別の角度からの脅威にも晒されている。
今年6月に東京高裁で、ある損害賠償を求めた訴訟の和解が成立。ヤクザ業界に激震が走った。
2013年頃、住吉会(小川修司会長・東京)の傘下組織組員が特殊詐欺事件に関与。その後、被害者52人が住吉会前会長である関功代表らに「使用者責任がある」として損害賠償を請求していたという。
関代表らは詐欺の被害総額の6億1790万円を超える約6億5000万円の和解金を支払っている。
「被害者らの弁護士は『今回の和解は特殊詐欺の犯罪抑止効果がある』と言ったらしい。しかし、特殊詐欺で集めたカネのすべてが住吉会に入ったとは思えない。あの手の犯罪には半グレだけでなく、カネに困ったカタギも関わることが少なくないのに、ヤクザを1人でも見つけると集中攻撃してくる。要は取りやすい所から取るということだ。こうした賠償請求は住吉会以外にも広まるんじゃないか」(都内に本拠を構える組織の組員)
実際、今年5月には六代目山口組の傘下組織組員による特殊詐欺事件の被害者らが、六代目山口組の司組長に対し、約2600万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴している。これから同様の請求が、全国のヤクザ組織のトップらに対して起こされるのでは、との不安が業界には広がっているという。
顔も名前も知らないような傘下組織組員の行動により、ヤクザ組織のトップが死刑判決を受けたり、巨額の賠償を請求される時代に、ヤクザたちが生き残れるわけがない。
工藤会のトップに下された死刑判決は、ヤクザ業界全体に下されたのと同じである。
(著者プロフィール)
蔦谷鳳鳴(つたや・ほうめい)
ライター。雑誌メディアを中心に活躍。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事