50年ぶりに発掘された歴史的な野外フェス!黒いウッドストック『サマー・オブ・ソウル』
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アポロの月面着陸よりも、熱狂を生んだステージ
会場をさらに盛り上げたのは、反戦ミュージカル『ヘアー』の挿入歌「アクエリアス/レット・ザ・サンシャイン」を歌うフィフス・ディメンション。人気絶頂期ならではの、自信に溢れたステージぶりだ。黒人コーラスグループの彼らはなぜ白人のミュージカルを歌うことになったのかを、当時の中心メンバーだったマリリン・マックーとビリー・デイヴィスJr.が振り返るなど、現在の映像も盛り込まれており、とても興味深い。
ステージが最高潮に達するのは、黒人と白人との混成バンド、スライ&ザ・ファミリー・ストーンだ。この年には「エヴリデイ・ピープル」が初の全米1位に輝いている。ボーカル&キーボードのスライ・ストーンは、アフロヘアに長いもみあげと1970年代を先取りしたようなファンキーな衣装がトレードマークだった。それまでミュージシャンたちのステージ衣装はスーツが主流だったが、スライの人気が爆発し、流れは大きく変わっていく。スライは音楽だけでなく、ファッションの分野にも多大な影響を与えたことが分かる。
ゴスペル界からは、マヘリア・ジャクソンとメイヴィス・ステイプルズが参加。大御所マヘリアと若手メイヴィスのデュエットシーンも本作の見どころとなっている。黒人ミュージシャンたちの多くは、教会で音楽に触れ、その才能を開花させていった。神に捧げる音楽こそが、彼女たちに自由を与えてくれた。ステージで歌っている間は、人種差別や女性蔑視の苦しみを忘れ、神との一体感を味わうことができた。ハーレムの一角の公園で開かれた「ハーレム・カルチャラル・フェスティバル」は入場無料だったことから、子どもから老人まで幅広いアフリカ系米国人たちが詰め寄せている。
1969年7月は、米国人ニール・アームストロング船長らが月面着陸したニュースをテレビは連日にわたって報道していた。米国人にとっては喜ぶべき快挙のはずだが、「黒いウッドストック」に集まった観客たちの反応は違う。
「月へロケットを飛ばす予算があるなら、社会福祉にもっと回すべきだ」
マイクを向ける白人レポーターに向かって、彼らは答える。アフリカ大陸から強制的に連れてこられた彼らの先祖や海外からの移民たちの安価な労働力によって、米国という国は繁栄してきた。労働者たちを搾取することで、アポロ宇宙船は月面に到着できた。ハーレムの狭い自宅に戻ってもテレビのない彼らが、黒い肌を輝かせるスーパースターたちのフリーライブに夢中になるのは当然だった。
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