トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 本木雅弘が企画を直談判した映画『おくりびと』
宮下かな子と観るキネマのスタアたち第19話

本木雅弘が企画を直談判した映画『おくりびと』自身の体験と改めて”死と生”に向き合う

映画を通じて実感する“お葬式” の意味

 私も、3年前の祖父の死で、納骨まで経験して初めて、お葬式という儀式が〝故人を送り出す場〟でもあるのだと気付きました。それまでも何度かお葬式に参列した事はありましたが〝故人とのお別れをする場〟つまりこの世に残っている人たちの一方的なもののように捉えていたと思うんです。作品の中で、笹野高史さん演じる銭湯の常連おじさんが、こんなことを言っています。

「死は、門だなぁって。死ぬっていうことは、終わりっていうことでなくて、そこをくぐり抜けて、次へ向かう。まさに、門です」

 納棺の儀式は立ち会えなかったものの、旅の身支度が整った祖父が火葬され、家族と共に骨を拾い、お墓に入るまでを見届けることで初めて、〝死〟は、〝終わり〟ではなく、通過点なのだと私は感じました。門をくぐって、新しいところにいくのだと、そういう感覚がしました。それは、本当の意味で〝死〟を理解することであり、きっと大悟の妻も、山下も、それを感じたのではないかと思います。

 そしてもう1つお話しておきたいのが、ベテラン納棺師・佐々木を演じる、山崎努さんの圧倒的な存在感の凄み。佐々木は、言葉数は決して多くはなく、常に行動で大悟を導いていく人。声を荒げたり否定したり、感情を高ぶらせることなく、先を見据えたような心の深さで相手と接する。それはもう、なんと言えば良いか、恐ろしささえ感じる存在感を放っています。

 特に印象的なのは、フグの白子を食べる場面。余貴美子さん演じる社員の上村に、仕事を辞めたいと申し出た大悟は、佐々木に直接話すよう言われ、部屋を訪ねると佐々木はちょうど食事中。招かれ向かい側に座る大悟。既に大悟の心を見据えているのか、佐々木はぽつぽつと話し出し、フグの白子を両手で持ち美味しそうに食べながら、こんな話をします。

「これだってご遺体だよ。生き物が、生き物食って生きてる。死ぬ気になれなきゃ、食うしかない。食うなら、美味いほうが良い」

 これを聞いて、何かを決心したような大悟は、同じ熱々の白子を食べる。あまりの美味しさに驚く表情。

「美味いだろ」
「美味いっすね」
「美味いんだよなあ、困ったことに」

 なんと素敵な場面だろうか。シュンシュンと静かに聴こえる蒸気の音、沢山の観葉植物達が生い茂った生命力が感じられる部屋で、命をいただく。そして山崎さんの食べ方がなんともエロティック。まさに〝生〟を象徴している空間なのです。生きるために命をいただくという本質。〝死〟があるから〝生〟がある、命の尊さが感じられる場面です。しかしまぁフグの白子をこんなにも美味しそうに、エロティックに食べる役者が他にいるでしょうか!

 山崎さんもご出演されている伊丹十三監督『タンポポ』の牡蠣よりも、何倍もエロティックに見えるのは、きっと人間の本質的な欲に触れているからなのでしょうね。フグの白子の他にも食べ物が多く描かれていて、貪り食べるホカホカのフライドチキンや車内で齧り付く干し柿もとても魅力的。どれもこれも、「美味いんだよなあ」「困ったことに」。妻が、貰ったタコがまだ生きていることに怖がり、大悟と川に返すも死んでしまう描写は、これらと対照的に描かれた場面。命をいただくことへの覚悟と責任を持つこと、人間はそれを忘れてはいけないな、と思います。

 いただく命があって、そして受け繋がれていく命があること。食べるなら美味しいほうが良いし、美味しいものを分かち合える人がいたら、もっと幸せ。様々な現場に足を運ぶ大悟達ですが、そこにはご遺体と共に、いつも家族の姿がありました。映画の最後に、大悟は幼少期から疎遠の父親と再会します。どのような形であっても、人は命を授けてくれた両親がいること、その命が受け継がれていくということ。それが人間のあるべき〝生〟の営みなのだと強く感じられます。

 〝死〟に携わる、納棺師という職に着目し、主演本木雅弘さんが自ら企画した『おくりびと』。この映画が織りなす空気感は、やはり特別なものに感じます。役者陣の圧倒的な芝居と共に、あの神秘的で、でもほのかにあたたかいあの空気感を、是非ご体感ください。

 樹木さんのように本を100冊に絞れて、山崎さんのように白子を美味しそうに食べられる生き方をしたいなぁ。白子は用意できそうにないので、私は今からケンタッキーを食べようと思います。

宮下かな子(俳優)

1995年7月14日、福島県生まれ。舞台『転校生』オーディションで抜擢され、その後も映画『ブレイブ -群青戦記-』(東宝)やドラマ『最愛』(TBS)、日本民放連盟賞ドラマ『チャンネルはそのまま!』(HTB)などに出演。現在「SOMPOケア」、「ソニー銀行」、「雪印メグミルク プルーンFe」、「コーエーテクモゲームス 三國志 覇道 」のCMに出演中。趣味は読書、イラストを描くこと。Twitter〈@miyashitakanako〉Instagram〈miya_kanako〉

Twitter:@miyashitakanako

Instagram:@miya_kanako

【アミューズWEBサイト公式プロフィール】

みやしたかなこ

最終更新:2023/02/22 11:36
123
ページ上部へ戻る

配給映画