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日刊サイゾー トップ > 社会  > 「きょうだい児」はなぜつらさを抱えるのか

障害者のきょうだい「きょうだい児」は、なぜつらさを抱えるのか? 専門家に話を聞いた

きょうだいが背負わずに自立することも可能

——きょうだい児にとって、親が亡くなった後——いわゆる「親亡き後」にきょうだいの世話をどうするのかというのは、必ず直面する課題だと思います。

吉川:地域によって福祉事業者の数は異なりますが、今の法制度上、親亡き後にきょうだいが世話をしなくても、障害者が地域で暮らせるようになっているんです。

——私のきょうだいは、文章での会話が難しく、調理や洗濯もできないのですが、それでも地域で一人で暮らせるのでしょうか。

吉川:できます。日中は福祉作業所に通所し、家事はヘルパーに来てもらう方法で、実家の一軒家で一人暮らしをしている人はいますし、グループホーム(の個室)で暮らすという方法もあります。

 私自身は、地域生活推進派です。さまざまな事情があるとは思いますが、入所施設での暮らしは基本的に集団生活であり、個人にカスタマイズするのが難しいですよね。施設のルールに合わせた生活がその人にとって幸せなのかどうかは、きちんと検討する必要があると思っています。

 もちろん、だからといって、きょうだい児がその世話を背負う必要はありません。そのために成年後見制度があったり、福祉の相談支援事業者がいて、サービス利用の相談に乗ってくれるんです。

 ただ、親が将来のことを何も準備せず亡くなってしまった場合は、残された障害のある本人だけでは必要なサービスを探せないことも少なくないので、必要な情報へのアクセスだけは手伝って、あとは専門職にお任せしていいと思います。その後は、帰省や冠婚葬祭など、障害のないのきょうだい同士でもやっているような付き合いは続けても、それ以上を担う必要は必ずしもないと思っています。

 また、家族が障害者を“できない人”扱いしていることも珍しくなく、「実家で面倒を見きれなくなったらすぐに入所施設へ」といった考えの人は多いです。でもそれは、制度を使って地域で暮らしている障害者の姿がまだまだ認知されていないからですよね。

 サービスを上手に使うには、情報が必要です。「WAM NET」という福祉情報サイトで、住んでいる市区町村のサービス情報がリストで閲覧できるので、一度見ていただけると良いと思います。

 また、行政の窓口もいろいろな情報を提供しています。ただし、障害者手帳を持っていないと利用できないサービスもあります。軽度の発達障害の場合、本人が手帳を取りたがらないケースもあり、そこがハードルになっているという話は聞きます。

——軽度の場合、親亡き後、きょうだいが面倒を見るのは状況的に難しくても、本人が入所施設に入りたがらないケースもあると聞いたことがあります。

吉川:障害年金では足りない分を、生活保護で補って生活する方法もあります。軽度の方ですと、金銭管理に不安を感じている方もいるのですが、社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)」において、日常的な金銭管理や、重要書類の預かりなどの支援をしてくれるサービスもあります。また、成年後見制度で、本人が浪費してしまった分を後から取り消したり、購入前に許可を取ってもらうという方法もあります。

 制度は変わってきているので、情報を得ながら、親亡き後に具体的に備えることは可能です。将来的には福祉職に引き継ぐことを想定しつつ、障害のある子の自立を考えるのは親の役割だと思っています。

 とはいえ、複雑な制度を理解するのは大変ですよね。そこで、やはり実際にサービスを利用している人の声が助けになります。どの事業所や福祉サービスを選ぶのかも、育成会などの親の会やきょうだい会で情報を仕入れると、ためになる口コミが聞けて参考になると思います。

 

吉川かおり(よしかわ・かおり)

明星大学人文学部福祉実践学科教授。専門分野は社会福祉学(障害学、生活支援、家族支援) 。一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会理事。共著に『精神保健福祉システムの再構築』(ミネルヴァ書房)、『最新介護福祉士養成講座 障害の理解』(中央法規出版)ほか。 

雪代すみれ(フリーライター)

フリーライターです。企画・取材・執筆します。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/社会心理学など

Twitter:@yukishiro7946

ゆきしろすみれ

最終更新:2021/08/29 13:00
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