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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.649

浅野いにお原作のR15映画『うみべの女の子』「サブカル系」10代は地方都市では生きづらい?

名曲「風をあつめて」と重なり合う、台風の上陸

浅野いにお原作のR15映画『うみべの女の子』「サブカル系」10代は地方都市では生きづらい?の画像3
閉鎖的な街に息苦しさを感じる磯辺と小梅にとって、海辺は大切な場所だった。

 ウエダ監督が語ったように、細かい台詞からストーリー展開まで、原作原理主義で貫かれている映画『うみべの女の子』だが、漫画を実写化する上でどうしても異なってしまうシーンもある。物語中盤、夏期講習に通っていた小梅は、感情の行き違いから気まずい関係になっていた磯辺の部屋を久しぶりに訪ねる。原作ではなし崩し的にお互いの体を求め合うが、映画は生身のキャストが演じるがゆえの葛藤があり、コマどうりには進まない。「お前、何しに来たの?」と冷たく対応する磯辺に対し、「磯辺に会いに来たんだよ」とまっすぐに答える小梅。この言葉をきっかけに、2人の抑えていた感情が爆発する。撮影現場で脚本を急遽修正して撮ったシーンだが、小梅と磯辺が二次元の世界から飛び出してきた生々しい瞬間でもある。

 R15指定のナイーブな場面の多い作品となっているが、ウエダ監督いわく「各部署に女性スタッフを必ず入れ、石川瑠華さんはもちろん、女性スタッフの声も積極的に聞くようにしました。ナイーブなシーンの撮影は、女性スタッフが率先して動いてくれた。女性の声をいろいろと取り入れながら撮影できたことは、この映画の大きなメリットになった」とのことだ。

 物語のクライマックスは、磯辺の誕生日である9月15日。この日は小梅たちが通う中学の文化祭開催日でもある。折しも、うみべの街には超大型台風が迫っている。松本隆作詞、細野晴臣作曲による名曲「風をあつめて」が流れる中、小梅は学校に来なくなった磯辺にそれまでうまく言葉にできなかった想いをきちんと伝えようとする。強風が吹き荒れ、横殴りの大雨が降りしきるこの日は、小梅にとっても磯辺にとっても、人生における「分水嶺」と呼べる大切な1日となる。

 ミニシアター文化への郷愁を感じさせる本作だが、ただ過去を懐かしんでいるわけではない。サブカル色にどっぷり染まっていた磯辺の兄の遺品だらけの部屋を、主人公たちは物語の最後に出ていくことになる。過ぎ去りし、愛しき時代との決別。心に痛みを感じつつ、それでも主人公たちは前へ進もうとする。『うみべの女の子』はシネコン&配信時代に生まれた、新しいミニシアター作品と呼びたい。

浅野いにお原作のR15映画『うみべの女の子』「サブカル系」10代は地方都市では生きづらい?の画像4
(c)浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会

『うみべの女の子』原作/浅野いにお 監督・脚本・編集/ウエダアツシ 挿入曲/はっぴいえんど「風をあつめて」出演/石川瑠華、青木柚、前田旺志郎、中田青渚、倉悠貴、宮﨑優、高橋里恩、平井亜門、円井わん、西洋亮、高崎かなみ、いまおかしんじ、村上淳配給/スタイルジャム R15+ 8月20日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか公開(c)浅野いにお/太田出版・2021『うみべの女の子』製作委員会 https://umibe-girl.jp

最終更新:2021/09/17 14:25
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