浅野いにお原作のR15映画『うみべの女の子』「サブカル系」10代は地方都市では生きづらい?
ミニシアターカルチャーへの郷愁
割り切った体だけの関係のつもりだった小梅と磯辺だったが、両親がほとんどいない磯辺の家に通ううちに、小梅は次第に彼の孤独さにシンパシーを覚えるようになる。でも、そこは中学生。お互いに惹かれているから一緒に過ごしているのに、2人とも正直になれず、相手をイラつかせる言動を繰り返してしまう。自分のことしか考えられない、10代の恋愛は面倒くさい。
本作を観ていると、1990年代から2000年代前半に流行したミニシアター文化を思い出させる。10代の男女の性を赤裸々に描いた塩田明彦監督の『月光の囁き』(99)、海辺の街を舞台にした“痛い”恋愛映画『たまもの』(04)など、多彩かつ個性的な作品がミニシアターを彩った。
小梅の父親を演じているのは、不朽の名作『たまもの』を撮ったいまおかしんじ監督だ。喪失感をテーマにした作品を撮り続けるいまおか監督の作風と、本作との繋がりを感じさせる。磯辺の父親は村上淳。彼も『ナビィの恋』(99)や『欲望』(05)など、数多くのミニシアター系作品に出演してきた。ミニシアター文化全盛期の日本映画界は、先鋭的な作品からマニアックな漫画の実写化作品まで多種多様性に満ちていた。
1977年奈良県生まれのウエダアツシ監督は、そんなミニシアター文化の洗礼を浴びて育った。『うみべの女の子』と同日公開の『子供はわかってあげない』の沖田修一監督、『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督も同じ世代である。
「学生時代は大阪で過ごしたんですが、テアトル新宿などで封切られたミニシアター系の作品が大阪で公開されるのが待ち遠しくてしかたなかった。いまおか監督へのリスペクトもあって、磯辺の兄が残した遺品の中には、いまおか監督のDVDボックスも入れています(笑)。『うみべの女の子』は、僕自身がほぼ同世代で早くから漫画家して活躍していた浅野いにおさんのファンということもあり、同世代のプロデューサーたちと一緒に作った作品です。ミニシアターで育った自分たちの世代ならではの映画を撮りたかった。セックス、はっぴいえんど、台風は絶対にはずせない要素として、原作原理主義で撮り上げています」(ウエダアツシ監督)
原作者の浅野いにおも立ち会ったオーディション会場には、学生時代に着ていた自前の制服を身にまとった石川瑠華が現れたそうだ。彼女がいかに原作漫画を愛し、オーディション段階から小梅役になり切っていたことを物語るエピソードだ。
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