浅野いにお原作のR15映画『うみべの女の子』「サブカル系」10代は地方都市では生きづらい?
人間は生きている限り、他者に激しい殺意を抱くことがあり、また自身の人生に価値が見出せず、死んでしまいたいと考える瞬間もある。肉体と精神がアンパランスな思春期なら、なおさらだろう。そんな危険な分水嶺をなんとか乗り切ることで、少年少女たちは大人へと成長していく。人気漫画家・浅野いにおの同名漫画を原作にした『うみべの女の子』は、分水嶺を前にして戸惑う主人公たちを描いた“痛い”青春映画となっている。
浅野いにおが2009年~2013年に雑誌連載した『うみべの女の子』を、10代女子たちの過激な暴走をファンタジックに描いた『リュウグウノツカイ』(14)のウエダアツシ監督が映画化。『猿楽町で会いましょう』(21)での鮮烈な演技が話題を呼んだ石川瑠華、ジョニー・デップ主演映画『MINAMATA ミナマタ』(9月23日公開)でも好演している青木柚ら、オーディションで選ばれた若手キャストが瑞々しい演技を見せている。
舞台となるのは、海沿いにある小さな町の中学校。地方都市ではマイルドヤンキーや体育会系が幅をきかせており、サブカル系の人間は生きづらい。東京から引っ越してきた磯辺(青木柚)はクラスでは目立たない存在だったが、真面目そうなクラスメイトの小梅(石川瑠華)と初体験を済ませることに。小梅は超チャラい三崎先輩(倉悠貴)にフラれ、投げやりな気持ちで磯辺を相手に選んだだけだった。醒めた性格の磯辺もそのことは理解しており、初体験以降も2人は磯辺の部屋での密会を続ける。
磯辺の部屋には、兄が残したパソコンの他にも、本や漫画、CDなどがぎっしりと並んでいる。優しかった磯辺の兄は、地元ヤンキーたちのイジメの標的にされ、近くの海で入水自殺していた。兄が自殺した日は、磯辺の誕生日だった。磯辺は誕生日を迎える度に、自殺した兄のことを思い出さなくてはいけない。磯辺は兄が残した「呪い」だと言う。
多趣味だった磯辺の兄が残した「はっぴいえんど」のアルバム『風街ろまん』を聴きながら、磯辺と小梅は性行為に励む。それは、まるで磯辺の兄の棺の中で、エッチしているかのようでもある。
地方都市におけるサブカル系人種の生きづらさ、自死した兄の呪い、兄を追い詰めたヤンキーたちへの復讐心、生まれて初めて選別される高校受験への不安……。そんなネガティブな感情を、セックスへの好奇心と快感がすっぽりと呑み込んでいく。
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