羽生善治九段の勝利にも貢献した“将棋めし”聖地が「かた焼き祭り」を開催!
#かた焼きそば
マイナー料理を主役に大抜擢する老舗の英断
店内に入ると、まず従業員の多さに驚く。決して広いとはいえない店舗だが、厨房内は常時フル稼動。
それもそのはず、緊急事態宣言中にもかかわらず、次から次へとお客さんがお腹を空かせて来店し、さらにテイクアウトと近隣への出前(超速!)もこなす超人的スケジュール。見ているだけで元気をもらえる。これもひとつの「祭り」といえるかもしれない。
では、本当の「祭り」とは一体なんなのか? その答えは特別メニューに記載されている。
そう、「かた焼き祭り」である。人生で一度も聞いたことがないフレーズだとは思うが、私も初耳だ。
メニューにも記載がある通り、先頃、私が出演した番組『マツコの知らない世界』でこちらのかた焼きそばを紹介させていただいたところ、かつてないほどに注文が入ったらしい。それを記念して、新作かた焼きそばをひっさげ「かた焼き祭り」を開催したとのこと。
テレビに取り上げられたとはいえ、所詮マイナー料理である。普通なら躊躇するところを、グイッと一歩踏み出して主役に大抜擢する英断。このフットワークの軽さは見習うべきところである。
通常、紫金飯店では「五目かた焼きそば(オイスターソース)」「かた焼きそば(塩)」の2皿展開だが、今回の祭りでは「ルースかた焼きそば(チンジャオロース)」「麻婆茄子かた焼きそば」「麻婆豆腐かた焼きそば」の3皿が新たに降臨。
この心意気、応えないわけにはいかない。
見た目以上にそれぞれの味の個性がきちんと表現されているのは、熟練のなせる技。例えば「ルースかた焼きそば」は、ルース本体の、豚肉のパンチ力とピーマン&タケノコの異なるシャクシャク感が本格的な夏の到来を感じさせ、決して米だけが恋女房ではない、揚げ麺の可能性を広げた秀逸な一皿である。
ほかの2種も同様だ。揚げ麺とも相性が良い。そんな麻婆茄子と麻婆豆腐、「ただ具材が変わっただけでは?」と思いがちだが、食べてみるとその微妙な違いに気づく。個人的な感想だが、かた焼きそば特有のとろみを最大限に味わいたいなら麻婆茄子、とろみを超えたトゥルトゥル感を楽しみたいのであれば麻婆豆腐といったところか。麻婆豆腐に関しては、ニラが本当に良いアクセントを生んでいて、最後まで飽きがこない仕上がりになっている。
また、ルース、麻婆茄子、麻婆豆腐のすべてに共通するのだが、決してヘビーでマッチョな男味ではなく、奥底に優しさを感じるスマートな味付けなので、女性の方でもペロリと平らげることができるだろう。
そして、揚げ麺。
紫金飯店の揚げ麺は「固さ」が最大の魅力である。これ以上固く揚げてしまうと、具材とのバランスが崩れて不快になるかもしれない、そのギリギリを攻めている。この絶妙なラインの揚げ麺は、そうそう出会えるものではない。
ちなみに以前訪問した際、揚げ麺担当として紹介されたのは今風の若い女性従業員だった。この若さですでに揚げ麺の見極めをマスターしているとは末恐ろしい。老舗の味と雰囲気を守りつつ、現代の感覚を拒むことなく柔軟に受け入れる姿勢。この先もしばらく紫金飯店は安泰だ。
今月も引き続き開催中の「かた焼き祭り」。祭りの後……にならないように是非、期間中に訪問することをお勧めする。
<INFO>
・紫金飯店 原宿店
住所:東京都渋谷区神宮前2-35-9 1F
営業時間:11:00~15:30、17:30~22:00(土曜は20:00まで)
※緊急事態宣言中は時間変更あり
定休日:日曜・祝日
Twitter:@shikinharajuku
Instagram:@shikinharajuku
<連載「かた焼きそばのフィロソフィー」の過去回>
第1回「海老天ベンツも潜む圧倒的な情報量の“揚げ日本そば”スタイル」
第2回「中野坂上にも“夢と魔法の王国”があった! 豚レバーとピリ辛餡が刺激的な『ミッキー』のかた焼きそば」
第3回「椎茸・ザ ・ボンバーの一点突破! “映え”だけじゃない極端かた焼きそばの滋味と享楽」
第4回「インド、アメリカ、中国が同盟を結んだ! フォークで食べる常識破りのジャンクかた焼きそば」
第5回「創業90年の町中華で味わう極上“アンビエント”かた焼きそばの宇宙と無常観」
第6回「まるでかた焼きそばのサラダ! 立川で100年以上続く福来軒の懐かしくて新しい逸品」
第7回「エキゾチックなタイ版かた焼きそば“あんかけのスコール”で微笑みがあふれ出す!」
第8回「“かた焼きそば名門校”出身の料理人による天衣無縫のあんかけと病みつき揚げ麺」
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