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日刊サイゾー トップ > エンタメ > スポーツ  > 東京五輪閉会式、庵野秀明らをフィーチャーしてほしかった!

東京五輪閉会式、どうせなら庵野秀明・手塚治虫・今敏をフィーチャーしてほしかった

『ジャングル大帝』からの手塚治虫フィーチャー

 聖火納火時に流れた曲は、日本が誇る音楽家・冨田勲がドビュッシーの同名曲をシンセサイザーで編曲した『月の光』。1974年に発表された同作が冨田の代表作であるのは間違いないが、冨田ならその9年前に作曲したテレビアニメ『ジャングル大帝』のオープニング曲を採用する手もあった。

『ジャングル大帝』の原作は言わずとしれた手塚治虫。1994年公開のディズニーアニメ『ライオン・キング』による模倣疑惑(の恨み)をいまだに抱き続ける一部手塚ファンも根強くいるだけに、ここで改めてジャパン・オリジンとしてぶち上げるのも、世界に向けた27年ぶりの意趣返しとして面白かったかもしれない。

 海外の映画やディズニーアニメから多大なる影響を受け、また世界にも影響を与えた手塚治虫のフィーチャーは、国際大会であるオリンピックを彩る意味でも理にかなっている。そんなことを考えれば考えるほど、閉会式冒頭の「光の粒」は『火の鳥』一択だったという思いが拭えない。あくまで個人的に。

 なお、コアな手塚フリークの筆者友人は「『君が代』斉唱に宝塚歌劇団を出すなら、『リボンの騎士』か『ベルサイユのばら』の扮装をするくらいのサプライズが欲しかった」とさすがの指摘。たしかに、手塚原作の『リボンの騎士』は彼が愛好していた宝塚がモチーフであり、主人公サファイアのモデルは当時の娘役スター・淡島千景。一方の『ベルばら』(原作:池田理代子)は1974年の初演以降、宝塚を代表する演目だ。しかも『ベルばら』なら次回開催都市・パリ(のバスティーユ牢獄)にもちゃんとつながる。完璧だ。

『東京物語』より『東京ゴッドファーザーズ』

 日本国旗の入場時に流れていたのは、世界中の映画人にその名を轟かす小津安二郎の名編『東京物語』(1953年)のテーマ曲。しかし同作は、田舎から東京に上京した老夫婦が子供たちから邪魔にされて居場所がない……という心が締めつけられる展開。「東京という街の素晴らしさ」なんぞ1秒たりとも描かれていないばかりか、最大公約数的に称賛される類いの「家族の絆」をむしろ批判的に論じたキレキレの野心作だ。

……という内容を踏まえた上で、「若者は忙しすぎて老人になど構っていられない、家族がバラパラになった2021年の日本」を皮肉った選曲ならばあっぱれと言うほかないが、きっと違う。「東京」「著名な日本人監督」「国際的評価」で雑に検索して決めた感が否めない。

 どうせその3ワードで検索するなら、世界的にも評価が高い今敏の劇場用アニメーション『東京ゴッドファーザーズ』(03)のほうがずっと気がきいている。年の瀬の東京を舞台にしたホームレス3人の善行を描く都会の寓話。華やかさとはかけ離れた猥雑な東京を生き生きと活写し、ラストには晴れ晴れしい祝祭感が待っている。疲弊した日本を元気づけるのにこれほどうってつけの話はない。音楽はムーンライダーズの鈴木慶一。中年ゲームクラスタには『MOTHER』(89)の音楽でおなじみだ。

 血の繋がりが必ずしも絶対的な美ではないことを描ききった『東京物語』より、赤の他人同士たる社会逸脱者が奇跡を獲得する『東京ゴッドファーザーズ』のほうがよっぽど、2021年のダイバーシティや格差社会やインクルージョンといった諸論点を包摂してはいないか。ちなみに3人のホームレスのひとりは元ドラァグ・クイーンである。

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