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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > チョコプラ、千鳥の「未完成品」と「完成品」

チョコプラ、千鳥の「未完成品」から「完成品」へ

大悟「ワシそんなん求めとんちゃうねん」

 ところで、未完成品にツッコんで笑いを完成させるといえば、たとえば千鳥の2人がやっているのはまさにそんな作業のように見える。『相席食堂』(朝日放送)や『クセがスゴいネタGP』(フジテレビ系)が典型的だ。ノブと大悟は、未完成品のような粗いVTR、それだけでは笑いになりにくい映像にツッコミを入れ、笑いを作る=完成品にする。そういう意味で、千鳥は卓越した視聴者でもあるのだろう。

 そんな彼らの冠番組である『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)。1日に放送された企画は「ノブより愛らしい浴衣ブスはおらんのじゃ」だった。昨年の夏にも女性の浴衣を着たノブをイジっていた同番組。今回は、山内健司(かまいたち)や津田篤宏(ダイアン)、藤本敏史(FUJIWARA)などの芸人も交え、浴衣姿の“愛らしさ”を競っていた。

 で、この企画は一面で確かにひどい。「浴衣ブス」という言葉選びとか、それを起点とした笑いの作り方を問題だと感じる人も多いはずだ。けれど、そのひどさはひどさとして確実にあるとして、ちょっと別のところにも着地したように見える。

 ドッキリで連れてこられた芸人たちは、メイクもカツラもつけず、浴衣を着ただけで幕の後ろにスタンバイする。最初の挑戦者はかまいたち・山内。幕が開き、後ろを向いた浴衣姿の山内が現れる。回転台が回る。ちょっとずつ見えてきた彼の表情は、少しうつむいた物憂げなもの。しかし、その作為のある表情に、「1回、幕閉めましょう」と大悟はNGを出す。

「ワシそんなん求めとんちゃうねん」

 このように、大悟はウケ狙いの作為的な表情を次々に否定していく。「どうしたらいいの…」などと困惑する芸人たち。しかし、そんなやり取りのなかで芸人たちがふと見せた“素”の表情に、大悟は「今のいいよ!」などとOKを出す。かと思うと、誰よりも表情の見せ方に迷いを見せたフジモンに対しては、「めっちゃくちゃ面白い顔してください」とさらなる失敗を演出し笑いを作る。

 どこにも正解のない、浴衣姿の愛くるしさというお題。そこに大悟の舵取りで正解・不正解が作られていく。大悟の理不尽さを含んだジャッジにノブが半ばノリながらツッコみ、共犯者的に笑いを増幅していく。その場で仮構されるルール。すぐに崩されるルール。新しい遊びを作るときの子どものような笑いに、視聴者も共犯者に巻き込まれていく。

 それは、未完成品を完成品にするプロセスでもある。『テレビ千鳥』のこれまでの企画を振り返ってみるならば、100円だけ握りしめてゲームセンターに行ったり、テレビ朝日の社屋の屋上で花冠を作ったり、広瀬すずに会うのをガマンしたり。千鳥の2人は設定だけが決められてその後の正解の決まっていない未完成品に見える企画を、現場のやり取りで完成品にしていく。

 そんな現場の叩き上げ式の笑いは今回も健在だった。もちろん、「浴衣ブス」という否定的なワードやそこから出発した笑いのひどさはひどさとして確実にある。が、同時に、そこには作為的な顔ではなくそのままのあなたの表情が一番輝いているといったメッセージも感じ取れるだろう。人気ブラジャーを当てる企画のときなども、そういった肯定的なメッセージが発信されていたように思う。

 千鳥の2人は、未完成品を完成品にしていく。しかし、しばしばその笑いには、未完成に見えるものはすでに完成されているという存在の肯定が見え隠れするのだ。――と、なんとなくそれっぽい感じのフレーズで締めたのだけれど、なんだかオチが決まらない。たぶん、読んだ誰かがうまいオチをつけてくれるはずだ。

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2021/09/21 11:43
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