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日刊サイゾー トップ > カルチャー  > プラモの衰退が、技術者の劣化を招く!?
フィギュア&プラモに賭けた2市の現場担当者が語る「背水の陣」【静岡県静岡市編】

タミヤ、アオシマ、ハセガワが公立小学校にも乗り出した「静岡市プラモデル化計画」!プラモの衰退が、技術者の劣化を招くと危機感も

地元民もプラモを知らない? 内と外のギャップをどう埋めるか

 この反応を受けて、タミヤ、青島文化教材社、ハセガワの3社が協同運営する静岡模型教材協同組合事務局の宮島一孝さんは、「我々ホビーメーカーとしては、もう50年以上前からPRしてきたつもりなんですが……」と困惑気味だ。

 そう、静岡市には1959年から続く模型見本市「静岡ホビーショー」がある。プラモデルやラジコン、鉄道模型の有名メーカーが一堂に会し、世界中からバイヤーも集まる世界最大級のイベントだ。

「なので、今回のプラモデル化計画は、昔から続けてきたPR活動の一環だという認識です。市のシティプロモーションとしては、全国的に地方創生が叫ばれた2007年から、お茶・マグロ・ホビーが地域振興の柱に据えて始まりました。その後も、クラフトを中心に幅広いホビーをテーマにした『クリスマスフェスタ』(2009年~)など、年間を通じたホビーイベントの開催。模型を常設した観光施設『静岡ホビースクエア』のオープン(2011年)と続き、今に至っています」

 こんなに熱心な取り組みが行われてきたにも関わらず、業界外の認知度は低い。そのギャップの理由は何なのか? 「静岡市プラモデル化計画」のプロデューサーである博報堂ケトルの畑中翔太さんに聞いた。畑中さんは、過去にヒットを飛ばした高崎市のシティプロモーション「絶メシリスト」の発案者でもある。

「たしかに静岡市ではこれまでも、静岡ホビーショーなどプラモデルをコンテンツにした取り組みを実施してきました。しかしこれらは、どちらかというと玄人向け(クローズド)の印象がありました。なので今回のプロジェクトでは、プラモデルをつくるあのワクワク感を、すべての人が感じられるようにしたい。つまり、“オープン化”しようと考えました」(畑中さん)

 公共物などのいつもある風景がプラモデル化したら、一番ワクワクするのではないか。その結果生まれたのが、プラモデルとモニュメントを合体させた「プラモニュメント」だった。「行政が発信するのなら、まずはプラモデル愛好家にきちんと受け入れてもらうことが重要」と、制作過程にも静岡模型教材協同組合の監修のもとで、実際のプラモデル製造に使われる技法が取り入れられている。

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プラモニュメントの制作過程。さすが1/1スケールは迫力が違う

 地元の「内側」では気づかないことを、外側の視点が発掘してくれることがある。プラモデル化計画も、長年の地元企業と行政の努力がベースにあり、そこに外部の「フラットな眼」をもった広告代理店が起爆剤を与えたということだろう。

プラモを経験していない子どもたちが不器用に、将来の技術者育成への懸念

 実はこの取材にあわせて、筆者もプラモデルデビューしてみた。青島文化教材社の楽プラシリーズ「ザ・スナップキット スズキ ジムニー」だ。

 対象年齢は10歳以上。接着剤も塗装も不要で簡単に組み立てられるとされているが、実際に手を動かしてみると驚くことばかり。ゴマ粒のように小さなシールを貼ったり、華奢なサイドミラーを取り付けたりと、精巧なつくりはオモチャの域を超えている。最先端のロケットやロボットなど、すべての技術はここから始まるのではと思うほどだ。

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気分は、自動車の生産工場。シールひとつでボディも急にリアルになる

 今の子どももさぞかし楽しんでいることだろうと思いきや――なんと、市内の小学校でとったアンケートでは、「プラモデルを作ったことがない」「プラモデルをほとんど作らない」と答えた児童の割合が、合わせて7割以上にものぼったそうだ。将来、日本の技術者はちゃんと育つのだろうかと心配になる。

 宮島さんは、すでにその片鱗は技術者の卵に現れているのではないかと語る。

「実は、同じ県内にあるバイクメーカーの元設計者さん(現在は将来の工業デザイナー育成に携わっている)と話したときに、『今の学生は、子ども時代にプラモデルを作ったことがないから、頭の中で二次元を三次元としてイメージできないのではないか』と懸念されていました」

 子どもたちの「つくる能力」の衰退には、静岡大学教育学部の芳賀正之教授も警鐘を鳴らす。

「20~30年前と比べて、小学校の図工科は、 “立体的な造形表現”にも力を入れて確実に進歩しています。にもかかわらず、子どもたちは不器用になっていますね。ドライバー使いがおぼつかなかったり、中にはホチキスが使えないという児童も。家庭で手を動かす機会が減っているのでしょう。3Dプリンタなどのデジタル技術が発展してきたとはいえ、空間認識能力や手をつくってモノを生み出すという身体感覚は、ものづくりの初期段階は必要です。プラモデルはその入口としても最適だと考えています」

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タミヤのミニ四駆やハセガワのロボット「メカトロウィーゴ」など、教材もバラエティ豊か
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女の子は絵付けも盛り上がる。プラモを楽しむことに男女差はない

 そんな中、約3年前から静岡市がシティプロモーションの一環として実施しているのが、小中学校への出前授業だ。市内プラモデルメーカーの社員が教室に出向いて、ロボットやミニ四駆、車などを一緒につくる。

現在は「ものづくりキャリア教育推進事業」として、前出の芳賀さん(静岡大学教授)とメーカーの社員が地域の産業や仕事について児童にわかりやすく教える、キャリア教育としての側面も持つ。小学校向けの授業は、3年間で31校2050人の児童・生徒に実施された。

 宮島さんは、「行政と民間の産業各社がつながることで、プラモデルメーカーが教育の現場に足を踏み入れることができた。ここに大きな意味がある」と力をこめる。

「私も授業に立ち会ったことがありますが、男の子にも女の子にも非常にウケがよく、驚いています。アンケートにも99%の生徒が『楽しかった』と答えています。現代の子にも、一度知ってもらえばプラモデルを好きになってもらえるのだと確信しました。これまで大人向けの商品ばかり開発してきたメーカーも、子どもたちの反応を見て、説明書やシールなどの仕様を変えようという動きも出てきたんですよ」

 実は戦前には、小学校にも「国策」として模型の授業があった。航空機などの航空思想を一般に広めると共に戦意高揚を図るため、学校のカリキュラムには模型飛行機の工作が取り入れられていたのだ。戦後、静岡では盛んに木製の模型がつくられ、そこからプラスチックの模型へと転換し、現在に至る。

 戦後はGHQによって禁止されてしまったが、時を経た今、平和で新しいカタチとして教育機関と関わることは可能かもしれない。静岡市という地方都市ではじまった行政とホビーメーカーの協働事業が、将来的には全国に波及することだって充分あり得るのではないか。

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