ジブリアニメでも描かれた「団地文化」の終焉。都営アパート最期の日『東京オリンピック2017』
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団地から始まる「終わりの始まり」
バラバラになりがちな団地住民たちにとって、交流の場となっているのが団地内にある小さな商店街「外苑マーケット」に最後まで残った青果店だ。団地に住む熟年夫婦が営んでおり、店内に置かれた椅子にはお客さんが腰掛け、世間話に花を咲かせる。また、青果店では手作りのお惣菜を日替わりで用意し、足腰が弱くなったひとり暮らしの住民の部屋までデリバリーしている。お惣菜を届けた際には、相手の健康状態を気遣う。団地生活が長い、この青果店の夫婦は地域の「見守り隊」の役目も果たしている。
その青果店に並んでいた野菜や果物の品数が次第に減っていく。夜の団地に残る灯りも、すっかり少なくなってしまった。もうすぐ、立ち退きの期限日が迫っていることが分かる。残った住民たちは団地内にある集会所に集まり、倉庫から出てきたモノクロフィルムをみんなで鑑賞することになる。同じフィルムを一緒に眺める姿は、限りなく“家族”に近い。
上映されたフィルムに写っているのは、前回の東京五輪前後にできたばかりのピカピカに輝いていた頃の都営団地の姿だ。団地の一棟一棟、そして各部屋で、それぞれの住人が半世紀にわたって人生を歩んできた。盆踊り、餅つき、節分などの季節の行事も、団地内では行われ続けてきたそうだ。人と人とが繋がることで育まれてきた都心のコミュニティーは、行政からの一方的な命令によってついに解散の時を迎えようとしていた。
本作は2014年から、新国立競技場の建設が進む2017年までを追ったドキュメンタリー作品だが、まるでSF映画を観ているかのような感覚に陥る。遠くない将来、この国全体が超高齢化社会となり、静かにその歴史を終えようとする。その終わりの始まりが、この都心にある都営団地だった。東京オリンピック&パラリンピックが終わった後、そんなSF世界が現実になっていくような気がしてならない。
映画の終盤、腕に障害を持つ男性は、片腕で荷物をリヤカーに載せ、新しい転居先へと向かう。誰の手も借りずに、自分だけで引越しの準備を済ませたらしい。ひとりぼっちの旅立ちだが、その姿はとても気高く感じられる。
ひとつの団地文化の終焉を記録した『東京オリンピック2017』。この映画は、この国の黙示録にほかならない。
『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』
監督・撮影・編集/青山真也 音楽/大友良英 整音/藤口諒太
配給/アルミード 8月13日(金)よりアップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほか全国順次公開
(c)Shinya Aoyama
https://www.tokyo2017film.com
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