ジブリアニメでも描かれた「団地文化」の終焉。都営アパート最期の日『東京オリンピック2017』
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宮崎駿が現実的なユートピアとして描いた「団地社会」
この団地に残っている人たちの多くは、高齢者たちだ。平均年齢65歳以上という高齢者団地となっていた。東京都が用意したのは、新しい都営団地の3つの候補(希望者が多い場合は抽選)と一世帯あたり一律17万5,000円という引越し費用だけだった。
腕に障害を持つ男性が、新しい住居にバリアフリー設備を付けてほしいと頼んでも、東京都側からは自費で賄うようにとの返事しかなかった。退去期限は2016年1月という厳寒期だった。高齢者や障害を持つ人たちに対し、まったく優しくない『東京オリンピック・パラリンピック』のもうひとつの顔をこのドキュメンタリー映画は捉えている。
東京ドキュメンタリー映画祭2020で特別賞を受賞した本作が劇場デビュー作となる青山真也監督は、取り壊しが決まったこの団地を決してディストピアとしては描いてはいない。確かに団地の住民のほとんどは年配者たちで、若者が姿を見せるのは神宮花火大会の日だけだ。おそらく若い家族は、東京都が提示した新しい転居先にすでに移ったのだろう。この団地での生活に愛着のある、ひとり暮らしの高齢者ほど取り残されていく。日本の高度経済成長を支えてきた「団地文化」の終焉を記録した、叙事詩的な映像作品と称したい。
スタジオジブリの人気アニメ『耳をすませば』(95)も、団地が舞台となっていた。宮崎駿脚本による、近藤喜文監督のデビュー作『耳をすませば』のモデルとなったのは、多摩市にある都営団地だった。ヒロインである雫の家族が団地の階段を上がる際には、同じ棟の住民とあいさつを交わし、踊り場で階段を譲り合う様子が描かれていた。雫たち家族は、限られた部屋数の中でそれぞれのプライベートを尊重しながら暮らしていた。経済的に裕福ではないものの、住民や家族がそれぞれを「個」として認め合う、穏やかなコミュニティーだった。戦後に誕生した団地社会を、現実的なユートピアとして描くあたりは、いかにも宮崎駿脚本らしかった。
最も都心にある都営団地に残った住民たちも、隣人をいたわりながら、誇りを持って自活している人たちだ。ひとり暮らしの高齢者が多く残っているのは、独立して団地から出ていった子どもたちの世話になることを良しとせず、最後まで自分の生活スタイルを貫きたいという強い意志があるからのように感じられる。ナレーションはなく、テロップも最小限にとどめられているため、観客は想像力で補いながらこの叙事詩を完成させることになる。
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