【JAMSTEC】石油と同等能力の植物プランクトンを発見! 世界が取り組む温室効果ガスの排出量実質ゼロに光か
#JAMSTEC #バイオ燃料 #化石燃料 #植物プランクトン
世界中でカーボンニュートラル政策が進められる中、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が、石油と同等の炭化水素を持つ植物プランクトンを発見した。
石炭や石油という化石燃料と違い、植物や藻類の光合成によって作られるバイオ燃料は、燃焼させても大気中のCO2濃度を増やすことはなく、新たなバイオ燃料として注目を浴びそうだ。
JAMSTECは7月19日、国立豊橋技術科学大学、自然科学研究機構生理学研究所と共同で、植物プランクトンDicrateria rotunda(D. rotunda)が炭素数10から38まで一連の飽和炭化水素を合成する能力をもつことを発見したと発表した。
飽和炭化水素とは、炭素と水素からできている有機化合物で、もっとも質量数の小さいものは炭素数が1つのメタンだ。ガソリンは炭素数10から15、ディーゼル油は炭素数16から20、燃料油は炭素数21以上で、この植物プランクトンが持つ炭素数10から38は石油と同等であり、このように石油と同等の炭化水素を合成する能力を持つ生物は、世界で初めての発見。
D. rotundaは、2013年に海洋地球研究船「みらい」がベーリング海に生息する植物プランクトンが北極海へ侵入し、現場で生産をしているかどうか調査する目的で植物プランクトンを採取した際に、チュクチ海の海水から採取された。
採取した植物プランクトン群集の中からD. rotunda北極海株を単離培養し、炭化水素組成を調べたところ、炭素数10から38までの一連の飽和炭化水素が含まれていた。
また、微生物株保存機関に保管されている他10種のDicrateria属を調べたところ、すべての株が同様の合成能力を持ち、共通した能力であることが明らかになった。
原油は主に炭化水素という有機化合物で構成されており、太古に植物プランクトンなどが、地下の高温・高圧の条件で長い時間をかけて熱分解・熟成により生成されたと考えられている。
地球温暖化を背景に、世界中でCO2削減に対する取り組みが進められており、化石燃料の削減は喫緊の課題となっている。菅義偉政権も2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標を掲げている。
こうした中で、太陽光などの再生可能エネルギーとともに注目されているのが、バイオ燃料だ。植物や藻類の光合成により作られるバイオ燃料は、燃焼させても大気中の正味のCO2濃度を増やすことはないが、炭素数の範囲が狭く、酸化されやすく不安定な不飽和炭素結合を含んでいるため、石油の代替とすることは困難だと見られていた。
今回、D. rotundaのつくる一連の飽和炭化水素の成分は石油と同等であり、十分に石油の代替として利用できる“質”を備えていることが判明したわけだ。
だが、問題もある。D. rotundaの単位細胞量あたりの炭化水素含有量は、生物源オイルとしてこれまで利用されてきた実績のある緑藻の1種ボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)の2.5~20%程度しかなく、“量”をどのように増加させ、確保するのが大きな課題となる。
一方で、Dicrateria自体は太平洋や大西洋など他の海域でも広く生息しており、そこで、JAMSTECなどが日本、フランスの植物プランクトンのカルチャーコレクションに保有されている10種のDicrateria属の炭化水素組成を調べたところ、すべての株で同様に炭素数10から38までの一連の飽和炭化水素を合成する能力を持つことを確認した。
これにより、今回発見されたD. rotundaの石油と同等の能力は、Dicrateria属に共通したものであることが判明したことで、北極海でなくてもDicrateria属を採取し、研究が可能であることが明らかになった。
JAMSTECでは、今回の石油と同等の炭素数10から38までの飽和炭化水素を合成するDicrateria属の能力の発見は、「今後、バイオ燃料開発につながる可能性が期待できる」としている。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事