オアシズ、「男子より面白い!」の気概で笑いと向き合ってきた光浦靖子と大久保佳代子の奮闘30年史
7月22日放送の『アメトーーク!』(テレビ朝日系)が行ったのは、題して「行ってらっしゃい光浦さん」。1年間カナダにホームステイする光浦靖子を送り出すべく、ゆかりのある芸人が集結し、知られざるエピソードと思い出話に花を咲かせるという企画だ。
東京外語大卒という学歴を持つ光浦だが、彼女が専攻したのはインドネシア語。実は、英語を喋れない自分に長くコンプレックスがあったらしい。学生時代からの心残りを今の今まで引きずってきているのだ。そして、彼女のマインドそのものも中高時代のままのように見える。
『とぶくすり』や『めちゃ×2イケてるッ!』(ともにフジテレビ系)では、バレンタインデーに自分に優しくしてくれた共演者へ手縫いの熊をプレゼントしていたという光浦。男性陣の間では「この熊が4つ揃ったら死ぬ」という話になっていたそうだ。
「びっくりした。男子がキャッキャキャッキャ笑ってるもんだからヒュッと覗いたら『4つ貯まったら死ぬでー!』って笑ってるからヒャーってなって」(光浦)
「男子が」という言葉選びに、彼女の変わることのない根っこが表れている。この感覚のまま47歳までめちゃイケを続けていた。やはり、留学すべくして留学したという気がする。
なぜ、光浦と大久保の仲は壊れなかったのか
それにしても、この日のゲストの顔ぶれはあまりに『アメトーーク!』らしくない。珍しく、MCの蛍原徹以外に吉本芸人がいないのだ。そして、タレントランクの高い芸人がかなり揃っている。中でも、注目は清水ミチコ。彼女は『夢で逢えたら』(フジテレビ系)でアメリカに行った盟友・野沢直子を見送った経験がある。「ダウンタウン―ナインティナイン」と「清水ミチコ―オアシズ」の関係性は明らかに違う。この辺り、女性芸人ならではの結束力か?
そもそも、学生時代からオアシズの2人は男子に対抗意識を燃やしていた。「GINZA」(マガジンハウス)2017年11月号での対談で、女子だけでつるんだ高校生活についてオアシズの2人はこう振り返っている。
――(学校では)なんの話をしてたんですか?
光浦 「どうでもいい話ですよ。テレビの話とか。そのモノマネをするだけでゲラゲラ笑って」
大久保 「低レベルなんだけど、『でも私たち、男子よりも面白いでしょ!』っていうのはあったね」
愛知県の渥美半島にある小さな町で生まれ育った光浦と大久保は、小学1年の頃からの付き合いだ。大学進学を機に上京した2人は人力舎のオーディションを受け、あれよと言う間に芸人デビューを果たした。しかし、その関係性は決して平穏なだけではない。両者が21歳の頃、実は大久保は光浦の彼氏を奪っているのだ。まだ2人が大学在学中で、オアシズがデビューするくらいのタイミングである。そもそもは、大久保が光浦に男性を紹介したのが始まりだった。
光浦 「大久保さんが好きだった人の親友だったんだもんね」
大久保 「……で、そこで劇団みたいなのを一緒にやった……のかな?」
光浦 「ごまかそうとしとる!」
大久保 「いやいや(笑)。それで、劇団をやって、仲良くなって、光浦さんが付き合いだしたんですけど……。ま、私が悪いんですけど、その人が私のことも『好きだよ』って言い出したんで、『そうなの?』って」
(「GINZA」2017年11月号より)
その後、件の男性が「オレ、佳代子んちに住んでるから」と光浦に電話をかけ、大久保の横恋慕が発覚する。なのに、オアシズの絆は破綻しなかった。
「DNAもあるんじゃないかなあって。田舎って逃げ道がないんですよ。ヘンな人や自分と合わない人がいても共存しなくちゃいけない。だから『オマエはそこがヘンだから直せ』じゃなく、ぬるっと共存していこうとする『共存の遺伝子』が組み込まれているんじゃないかなって」(光浦)
光浦のキャラクターを前面に押し出す初期オアシズ
今回、番組内では勝ち抜きネタ番組『GAHAHAキング 爆笑王決定戦』(テレビ朝日系)に挑戦した若き日のオアシズのネタが披露された。これが、今見てもちゃんと面白いのだ。しっかり練習を積んでいるのがわかるし、リズムネタなどわりと先進的なことにもチャレンジしている。やはり「男子には負けない!」という気概でお笑いに対峙していた? コントの印象が強いオアシズだが、実は漫才もお手の物。デビュー間もない時期、2人は以下のような漫才をやっていた。
大久保 「私もバイトしようと思ってアルバイト雑誌見てんだけど、近頃やたらとカタカナ職業が多くて。クリーンスタッフ、クリーンスタッフって、結局は掃除婦のことでしょ?」
光浦 「そーそー。キャッシャー、キャッシャーって、結局はキャッシー中島でしょ? (レジ打ちながら)ウチの勝野が~、店長ウチの勝野が~」
大久保 「ウソこけー! 見せてくれよ、そんなスーパーを。英語に直してんだよ。わかってないんじゃないのー」
光浦 「そんなんわかってるってぇ」
大久保 「本当に? じゃあ、いくよ。フロアレディってなに?」
光浦 「床女?」
大久保 「直訳かよ。わかってねーじゃんかよ。じゃあ、次いくよ。ホールスタッフは?」
光浦 「穴係、穴係」
大久保 「なんか、言い方がいやらしいなあ」
(ワニブックス『続 キンゴロー』より)
ビートたけしの熱狂的ファンだった大久保の嗜好を取り入れつつ、当時の光浦のキャラクターの強さを前面に押し出そうとする意図がうかがえるネタだ。東京外語大卒の光浦が無暗に英語を直訳するボケを連発しているのにも注目である。
光浦が留学するタイミングは今しかなかった
番組のエンディングで光浦の功績を称賛したのは、後輩の森三中・黒沢かずこだった。
「20代前半からずーっと働き続けてるんですよ、光浦さんって。結構、男性の世界なんです、お笑いって。男尊女卑も当時受けたりして。光浦さんが振られて一言で落とすっていう実績を残してくださったから、女も振ってもらえる機会を得たし。エッセイとか言葉のセンスも上手くて、女芸人の幅を広げていった方なので」
先輩への尊敬の念を、言葉を尽くして笑い無しで表明した黒沢。そして、最後は相方・大久保からの贈る言葉だ。
大久保 「50歳で(留学に)行くっていうのは、まだ体動くし、頭もしっかりしてるし。私にはその勇気がないんでできないですけど、ここで行くっていうのはすごく羨ましくてカッコいいと思うんで。で、本当に今まで仕事仕事でやってきたんで、カナダに行ったら男性のほうもね? 光浦さんを知ってる人が少なくなるわけだから。性欲も溜まってるはずです。靖子のメイプルシロップをナイアガラの滝のようにビッチョビチョに。悪い虫が来てもそれは拒否せず、メイプルシロップは吸わせてやりなさい」
光浦 「ありがとう(泣)」
カナダが留学先なだけに「メイプルシロップ」というワードを選ぶ大久保の機転に唸る。しんみりした雰囲気を下ネタで一掃する芸人としての矜持もいい。しかも、その言葉で光浦がなぜか涙するから面白いコンビだ。
そして、大久保が光浦に贈った言葉「まだ頭もしっかりしてるし」という一節がリアルだった。50代になると、親の介護もそろそろ考えなくてはならない。おそらく、彼女には今しかなかった。前述の「GINZA」で光浦は将来について語っている。
「私も大久保さんも一生独身かもしれんけど、『あの人たち楽しそうだよね、幸せそうだよね』って思われれば、それで勝ちだなあって」
それだけじゃない。光浦には他に大きな希望がある。2017年10月18日放送『1周回って知らない話』(日本テレビ系)で、光浦は「オアシズで冠番組を持つこと」が目標と口にしていた。50代の1年間なんて、たぶんあっという間だ。
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