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「東海テレビ」名物プロデューサーの回顧録 体験的ドキュメンタリー論『さよならテレビ』

精神的な貧しさをあらわにした『ホームレス理事長』

「東海テレビ」名物プロデューサーの回顧録  体験的ドキュメンタリー論『さよならテレビ』の画像3
『ホームレス理事長』より。二転三転する人生を歩む山田理事長。(c)東海テレビ放送

 これまで日刊サイゾーでは、『平成ジレンマ』以降の東海テレビ制作のドキュメンタリー映画をたびたび紹介してきた。なかでも、ひときわ鮮烈な印象を受けたのは、圡方ディレクターが撮った『ホームレス理事長 退学球児再生計画』(2014年)だ。『ヤクザと憲法』『さよならテレビ』でテレビ業界のタブーに挑んだ圡方ディレクターのデビュー作でもある。

 圡方ディレクターは当初、野球強豪校を中退した高校球児たちの受け皿となっているNPO法人「ルーキーズ」の活動を追っていた。挫折を経験した球児たちが新しい野球チームで立ち直っていく姿を描いた感動的な青春ドキュメンタリーになるはずだった。だが、阿武野プロデューサーの言葉によって、取材対象が変わる。「ルーキーズ」経営のために金策に走り回る山田豪理事長に、カメラを向けたほうが面白いのではないかと。感動的な青春ドキュメンタリーになるはずだった企画は、まったく違った方向へと転がっていき、展開が予測できなくなる。

 金策に行き詰まった山田理事長は、怪しい消費者金融に手を出し、アパート代を滞納、ネットカフェで寝泊りするようになる。タイトルにあるとおり「ホームレス理事長」となってしまう。野球の名門校をドロップアウトしてしまった球児たちを救おうとして、理事長自身が社会からドロップアウトしてしまう。山田理事長のことを笑うのは簡単だ。でも、損得勘定ができない愚直な者でなければ、挫折を経験した若者に手を差し伸べることもしないというシビアな現実がある。この国の精神的な貧しさが、『ホームレス理事長』には描かれていた。

 山田理事長のホームレス姿に加え、『ホームレス理事長』には自傷行為に走った少年を「ルーキーズ」の監督が9連続ビンタするシーンが記録されていることも問題視された。体罰シーンがあることから、系列キー局であるフジテレビは、『ホームレス理事長』を全国放送することを見送った。また、ローカル放送後に東海テレビに寄せられた視聴者の声も、悪口のオンパレードだったそうだ。

 第5章「世の中には理解不能な現実がある」で、阿武野プロデューサーはこう振り返っている。

【不登校、暴力、闇金、ネットカフェ……。このドキュメンタリーは、社会からはみ出した世界の連続だ。理解できない人々もいるだろう。しかし、世の中には理解不能な現実だってあるものだ。理解できないと切り捨てるのではなく、まあそういうこともあるかと許容するほうが豊かな生き方だと思うのだ。考えてみれば、子どもの頃にわからなかったことが、ある日、合点がいくこともある。人間の脳は、思っている以上に度量が大きいはずだ。】

 テレビ局の未来に絶望しながらも、阿武野プロデューサーは人間の可能性を信じている。

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