ドイツ市民600万人を虐殺する実録報復ドラマ! ユダヤ人が結成したナチ狩り部隊『復讐者たち』
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目には目を、歯には歯を。600万人のドイツ人を殺せ!
物語の中盤から登場するのは、戦時中からパルチザンとして活動していた民間ユダヤ人たちによって組織された「ナカム」だ。「ナカム」はヘブライ語で「復讐」を意味する。後にイスラエルで詩人として知られることになる実在の人物アバ・コフナーを中心メンバーとする「ナカム」は、壮大な復讐計画を練っていた。
ナチスによって600万人ものユダヤ人が殺された。ナチスの虐殺行為に多くのドイツ人は協力するか、もしくは黙って見過ごしていた。目には目を、歯には歯を。600万人のユダヤ人が殺されたなら、600万人のドイツ人を殺してしまおう。ミュンヘンをはじめとするドイツの大都市の水道水に毒薬を混入し、無差別に大量殺戮する「プランA」の準備が着々と進む。
ユダヤ人によるナチハンターたちは、一枚岩ではなかった。この「プランA」が実行されれば、ユダヤ人は国際社会から糾弾されるのは明らかだった。建国途上にあったイスラエル国は、承認されないことになりかねない。「ユダヤ旅団」に所属していたミハイルは、「ユダヤ旅団」解散後はパレスチナの軍事組織「ハガナー」に籍を置いていた。「ハガナー」としては、「ナカム」の暴挙を見逃すことはできない。ミハイルに頼まれたマックスは「ナカム」に近づき、内部情報を知らせることになる。
スパイとして「ナカム」に潜入したマックスだったが、メンバーの信頼を得るために「プランA」の準備に没頭していく。気づいたときには、マックスが誰よりもいちばん過激な復讐鬼となっていた。
もともとは気の優しい絵描きだったマックスは、心の奥に消えない罪悪感を抱えていた。妻や子どもを守ってやれなかった後悔がひとつ。もうひとつは、強制収容所でマックスに与えられていた仕事について。マックスは強制収容所に新しく来た収容者たちをガス室へ案内する役目を命じられていた。マックスは、新しい収容者たちに「逃げろ」と言うことが最後までできなかった。それだけでなく、ガス室へ入っていく同胞たちが残したカバンの中にあった食べ物をあさることで、彼は生き延びたのだ。
消えることのない後ろめたさが、マックスの背中を押す。自分自身が罪深い大量殺人鬼になることで、戦時中に刻まれた罪悪感を上書きしようとする。ミハイルが叫ぶ「恐怖を知らない世代を育てることこそが、ナチスに対する本当の復讐だ」という言葉は、「ナカム」の一員になりきっていたマックスには綺麗ごとにしか聞こえなかった。マックスは水道局に忍び込み、浄水槽に猛毒を投げ込むことを決意する。
世間的にはあまり知られていない「ユダヤ旅団」だけでなく、「ナカム」の存在も明かした本作を撮ったのは、ドロン・パズとヨアヴ・パズというユダヤ人の兄弟監督。『エルサレム』(16)や『ザ・ゴーレム』(19)といった、ユダヤ人ならではのホラーサスペンスをこれまでに残している。自分たちのアイデンティティーにこだわった作品を撮り続けているところが、この兄弟監督は興味深い。
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