“密告社会”で芽生えた恋愛感情は成就するのか? 台湾発のホラー映画『返校 言葉が消えた日』
#ホラー #台湾 #返校 言葉が消えた日
「愛」と「独占欲」はよく似ているが……
学内きっての模範生で、美少女のファンのことを、ウェイは密かに憧れていた。ウェイにはもうひとつ、楽しみがあった。それは誰も使っていない備品室に一部の生徒がこっそり集まって開かれる読書会だった。チャン先生がインドの詩人タゴールや大正時代に恋愛ブームを起こした日本の文芸評論家・厨川白村らの本を持ち込み、女性教師のイン先生(チョイ・シーワン)が美しい声で朗読してくれた。自由や恋愛の素晴らしさを謳う言葉の数々に、ウェイたち生徒は酔いしれた。暗い学園生活の中で、チャン先生やイン先生が教えてくれる自由世界が、ウェイたちに明るい希望を与えてくれた。
だが、弾圧の手は、ささやかな読書会にも迫ってくる。誰かがバイ教官に密告したに違いない。秘密を固く誓い合っていた仲間のことが、ウェイたちは信じられなくなる。楽園は美しければ美しいほど、その終焉はとても物哀しいものがある。
両親の不和が原因で、家庭に居場所のないファンは、いつも優しく接してくれるチャン先生に好意を抱いていた。そんな年上の男性教師に恋する美少女に、年下のウェイは片想いしている。遊園地の回転木馬のように、どこまで進んでも一方通行なままの恋愛群像が描かれる。人が人を想う気持ちはなかなか通じないのに、裏切り行為は一瞬で成立してしまう。愛と独占欲はとても似ているが、よく見るとそれは別物だ。自由世界と恐怖政治くらいに違う。思春期の若者たちには、そのことを理解するにはまだ早すぎた。
ホラー映画では、小道具が重要な役割を果たすことが多い。『返校』で重要な小道具となっているのは、「鏡」や「ガラス」といった割れ物だ。主人公たちは「鏡」や「ガラス」にひどく怯える。「鏡」や「ガラス」に映っている自分の姿を見るのが怖い。さらに悪夢パートに登場する不気味なモンスターたちの顔をよく見ると、顔の部分が「鏡」になっている。「鏡」に映っているのはモンスターなのか、それとも自分自身なのか。その答えを確かめるのが恐ろしい。
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