ハロプロもAKBも地下ドルも…アイドルとフェミニズムは矛盾しない! “主体的”なアイドルであることの尊さ【研究者・高橋幸さんインタビュー】
#アイドル #柏木由紀 #ミスコン #フェミニズム #横山由依 #寺嶋由芙 #和田彩花
フェミニズムに言及するアイドルたち
──「アイドルとフェミニズムは両立する」と言える理由が、ちょっとずつわかってきました。「アイドル本人がやりたいことを、やれているのか」が重要なんですね。
少し込み入った話をしますが、アイドル本人は「主体的」にやりたいことをやっていると思っているかもしれないけれど、実は「男性のまなざし」を内面化しているだけで、結局のところ「男性」にとって都合のいい「商品」にされているだけだ……そんなふうに考える人もいます。高橋さんはその点をどう考えますか?
高橋:アイドル自身が自分の希望や意志に基づいて一生懸命活動しているのに、それを見た他人が、「搾取されている」とか「抑圧されている」などと言うのは、失礼なことですよね。
私は、次の3つの要素を備えているのであれば、誰が何と言おうとその人は「主体的」に行動していると言えると考えています。すなわち、自分の「希望や意志」があり、その「実現」のために、「努力」していることです。
たとえば、AKB48の柏木由紀さんは、とにかく「アイドル」というものが好きで、自分が理想とするアイドルを実現しようと努力されてきて、事実すばらしいアイドルになりました。いま、30歳まで卒業しないと宣言されています。ソロアイドルの寺嶋由芙さんもそうですよね。このようなあり方を「主体的でない」と、一体誰が言えるでしょうか。
問題なのは、アイドルの主体性を利用して、アイドルを食いつぶしていくような搾取システムです。だから、それを変えていくためにも、まずはアイドル本人たちがやりたくないことに関しては、「なんかヤだ」とか「違和感がある」というように、率直に言葉にしたり、拒否したりすることが「当たりまえ」になるといいですよね。
ファンもまた、アイドルがそういう気持ちを表明したときに、「運営とトラブっている子」などというようにネガティブに捉えるのではなく、みんなでそれを支持し、その結束がアイドル界の不条理な仕組みを変えていく力になるといいなと思います。
それから、アイドルを搾取するシステムということで言えば、これは「女性」問題ではない労働問題ですが、ご当地アイドルや地下アイドルといったアイドル文化の広がりの中で「やりがい搾取」が横行し、労働者としての権利が守られていないという問題があります。このようなことに関しても、フェミニズムのような何らかの横のつながりの中にいると、声を上げやすくなります。
──その点に関しては、寺嶋由芙さんが「ABEMA Prime」(ABEMA TV)や自身のYouTubeでアイドルたちに「持続化給付金」の申請を促すなど労働問題について発信されていたり、元・地下アイドルの姫乃たまさんが労働問題について触れた本『地下アイドルの法律相談』(日本加除出版)を上梓されていたりと、彼女たちの行動もあって、アイドルの労働環境への問題意識が高まっていますよね。
高橋:寺嶋さんは、アイドルたちが法律問題を相談できる場所や、労働組合のようなものがあったらいいのにということもおっしゃっており、なるほどととても納得しました。お二人とも、いまアイドルをしている本人たちに届くように活動されているのも的確で素晴らしいですよね。
──自身も社会的なことを発信し、フェミニズムに興味があることを明言されているハロプロのアイドルの和田彩花さんも、フェミニズムに触れることで「自分の違和感がここにあった」と感じ生きやすさにつながったという体験をいろいろなインタビューで答えられています。
高橋:はい。「フェミニズム」という言葉は、現代社会においてなんだか不思議なパワーワードになっていて、それを口にするだけで叩かれたり、「あの人は“あっち”に行っちゃったから」と言われたりします。
なぜこんなことになっているのかというと、変化を拒むマジョリティ社会がずっと「フェミニズム」にそういうレッテルを貼ってきたからです。簡単に想像できることですが、職場など、その場で一番権力がある人が「フェミニズム」という言葉を否定的に使うと、その場では誰もが「フェミニスト」であることを拒否するようになるし、「フェミニスト」を嘲笑するようなコミュニケーションをせざるを得なくなります。そうやって「フェミニズム」の否定的なイメージが作り上げられてきました。
しかし、そういう偏見に惑わされず、実際のフェミニズムはどういうことを言ってきたんだろうということに興味を持ってみると、和田さんが言うように、フェミニズムは日常生活の違和感に言葉を与えくれるものだということが見えてきます。そうやって、自分の気持ちを一つずつ、自分が「理解」していくことって、生きていくうえで重要なことだと思うんですよね。
和田さんや、それからAKB48の横山由依さんのように、「フェミニズムに関心がある」という言葉を、とくにアイドルの立場で発するのは、やはり今でも大変なことです。それを支えたのは、自分が経験した不条理が繰り返されていってほしくないという思いだったのではないかと、僭越ながら勝手に想像したりしています。
私も、フェミニズムの視点からアイドル文化を捉え返していくことが、未来のアイドルたちのためになる、そう信じています。
高橋幸(たかはし・ゆき)
1983年宮城県生まれ。2014年東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程修了。現在、武蔵大学(他)非常勤講師。専門は社会学理論、ジェンダー理論。著書に『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』(晃洋書房)
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