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「アイドル・フェミニズム」新論1

ハロプロもAKBも地下ドルも…アイドルとフェミニズムは矛盾しない! “主体的”なアイドルであることの尊さ【研究者・高橋幸さんインタビュー】

ハロプロもAKBも地下ドルも…アイドルとフェミニズムは矛盾しない! 主体的なアイドルであることの尊さ【研究者・高橋幸さんインタビュー】の画像1
Getty Imagesより

 隣国・韓国ではBLACK PINK、MAMAMOOをはじめ「ガールクラッシュ」という男性目線の“女性らしさ”から逸脱した力強い女性グループのムーブメントが起こっていますが、多くはいまだ「偶像化・客体化された」アイドル像が残っています。ファンとしても、彼女たちを応援したい一方で、葛藤を抱える場面に出くわすことも。

 これは、これからのアイドル文化を心地よく受容するために、フェミニズムの言葉や解釈を借りて、どのように推しを応援していけばよいのか、アイドルにとってどんな考えが味方になるのか、アイドル・フェミニズムの可能性を考える企画です。

 お話を聞くのは、武蔵大学非常勤講師の高橋幸(たかはし・ゆき)さん。現代の「ポストフェミニズム」を専門に研究されています。

「アイドルとフェミニズムは矛盾しない」と、高橋さん。アイドルやファンに大切な気づきを教えてくださいました。

後編:「恋愛禁止」「卒業制度」はもう古い! アイドル界のルールをフェミニズム的に読み解けば【研究者・高橋幸さんインタビュー】

「自分が選びとった女らしさを肯定する」フェミニズムの動き

──現状のアイドルを応援するときに感じる“モヤモヤ”と対面したときに、フェミニズムの考えや言葉が有効かもしれないと思いました。まずは、高橋さんが専門とされている「ポストフェミニズム」について、ご説明いただけますでしょうか。

高橋幸さん(以下、高橋):ポストフェミニズムとは、一言でいうと、第二波フェミニズム以後のフェミニズムという意味です。フェミニズムは、第一波、第二波、第三波、第四波と時代や環境の変化に伴って、新しい主張と運動が起こってきました。私が着目しているのは1990年代から始まった第三波フェミニズムと、それと同時期に登場したフェミニズムから距離を取ろうとする「ポストフェミニスト」の女性たちです。

 それぞれ、どのような運動だったのか簡単に説明すると、第一波フェミニズムとは、女性の参政権や相続権といった平等な権利の獲得を目指したものでした。第二波フェミニズムは、1960年代後半からはじまり、「個人的なことは政治的なこと」を合言葉に、日常生活の男女平等を求める運動となりました。

 第三波フェミニズムは、英米で1990年代から登場します。第二波を乗り越える、新しいフェミニズムを目指したもので、「女らしさを肯定し、女性の主体性を重視する」というのが非常に重要な変化でした。

 第二波では、ハイヒールやセクシーな格好をすることは社会や男が押し付けてきた「女らしさ」だと考え、それに徹底的に反抗しました。ブラジャーやつけまつげ、ヘアカーラー、ファッション誌など、ありとあらゆる「女らしさ」を作り出すものを燃やす「ブラ・バーニング」という象徴的な抗議パフォーマンスも起こります。

 ですが、第三波は、ミニスカートや真っ赤なリップなども「女性が主体的に望んだものならばいいじゃないか」と、肯定します。当時は、マドンナやスパイス・ガールズなどのポップスターたちが「女性のエンパワーメント」を象徴する存在になり、性的魅力と自信にあふれた人が支持されました。2010年代にはレディ・ガガに見られるように多様なジェンダー・アイディティやセクシュアリティを肯定する姿勢が広がり、プラスサイズ体型の女性など多様な女らしさを肯定する流れも強まってきました。

 こうしたフェミニズム意識の裾野の広がりのなか、他方で「フェミニズムなんてもう古い」と主張したり、「私はフェミニストじゃないけど……」とわざわざ前置きをしたりする「ポストフェミニスト」が1990年代の英米のメディア上に、頻繁に表れるようになります。ちなみに、私はポストフェミニストを研究対象にしている第三波フェミニストです。

 第四波はSNSなど、オンライン上で活発に行われるフェミニズムのことで、「#MeToo」やハッシュタグでのアクティビズムがその典型例となります。かつては「サイバーフェミニズム」とも呼ばれていましたが、2010年代後半の盛り上がりの中で第四波と呼ばれることが増えました。

──時代によって、さまざまなフェミニズムの思想が存在するのですね。韓国のガールクラッシュを象徴するアーティストは、第三波以降の流れだと思いました。

高橋:そうだと思います。「女性の主体性」や「強さ」をポジティブに歌うアーティストは、第三波で多く登場しました。

 ただ、フェミニストの中にも世代間の感覚の違いというのはあり、それに伴ってアイドル文化の捉え方も異なっているようにと思います。第二波フェミニストには、「性の商品化」という社会問題の典型例として、アイドル文化が見えているようです。しかし、第三波的に考えれば、アイドルとフェミニズムはむしろ相性がいいところも多いんです。

アイドル自身が表現したいアイドル像を実現できているかどうか

──高橋さんはTwitterで「ミスコンに出たり、アイドルになったりすることとフェミニストは矛盾しないという立場のフェミニズムが必要」とおっしゃっていました。アイドルとフェミニズムは両立する、と思われる高橋さんの考えを詳しく教えていただけますでしょうか。

高橋:女性の自己表現を応援し、それを全力で肯定していくという点で、アイドル文化とフェミニズムは手を結ぶことができます。アイドルのようなキラキラした存在になりたいと夢見る女の子たちの「自己表現の追求」を後押しし、彼女たちを「推す」ことで、一緒に夢を見させてもらえるというのは、何ものにも代えがたいものがあります。

 このような文化を肯定しながら、同時に、「フェミニズムの観点から言って、それはアイドルの搾取なのではないか?」とか「こういうアイドルの制度は変えた方がいいのでは?」と声を上げていくことは両立する、というのが私の考えです。アイドル文化を持続可能なより良いものにしていくためにも、女性を抑圧するような慣習はなくなった方がいいですよね。

 もちろん、こういうことを言う人もいます。「アイドルやミスコンが世の中にあることで、世の中の「女らしさ」規範がなくならないから問題だ」とか、「将来的にはアイドルやミスコンのようなものはなくなった方がよい」とか……ですね。実際、ずいぶん以前の話ですが、ミスコンに出ようとしている女性たちを説得して、出場を取りやめてもらおうとするという出来事もありました。

 しかし、冷静に考えてみると、女性アイドルやミスコンといった、「女らしさ」を要求される場にいる女性たちこそ、現代において最も強烈な形で「女性であること」を経験しているのではないでしょうか。

 そうであるとすれば、「女性ならでは」の良いことも悪いこともたくさん経験するような場にいるアイドルたちが、フェミニズムの言葉に頼れなかったり、女性の連帯の輪に加われなかったりするのは、とても不幸なことです。アイドルやミスコンの内部においてこそ、フェミニズム的な意識が必要になっているとも言えます。

──なるほど。最近は、フェミニズムについて言及するアイドルも登場してきました。

高橋:アイドル文化の内部からフェミニズムを進めていく「アイドル・フェミニズム」のようなものも、現代では重要な一つのフェミニズムのあり方になると思います。ジェンダー平等意識を当然のものとして持っているファンが増えた現代では、それが現実的に可能になってきているのではないでしょうか。

 その際、基準となるのは、「アイドル自身がやりたいと思えることを、やれているのか」です。とくに、まだ若いアイドルの場合、周りのオトナたちの「仕事とはそういうものだから」とか「おカネをもらっているんだからやるのが当然」といった言葉によって、本人がやりたくないと思っていることも、なんとなくやらされているかもしれません。しかし、人間というのは不本意なことをやらされると、どんなに小さなことでも傷つきますし、その蓄積は大きなダメージになります。

 このような違和感に言葉を与えてくれるものとして、フェミニズムはあります。「イヤなものはイヤ」という言葉を、勇気をもって発し、そして周りを説得していくためにも、フェミニズムは今後さらに重要になってくるでしょう。

 前々からアイドルたちがSNSなどでふと漏らす「モヤモヤ」のなかには、「これこそまさにフェミニズムが扱ってきた問題じゃないか!」と思えるものが多いなと思っていました。

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