男尊女卑社会に鉄槌を下す孤高のバッドナース!医大の闇『プロミシング・ヤング・ウーマン』
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女の敵は男だけではなかった
キャシーが女仕置人となった理由は、医学生時代にさかのぼる。キャシーの大の親友だったニーナは、学生が集まるパーティーで酔い潰された挙げ句、男子学生たちによって集団レイプされてしまった。ニーナは大学に訴えたが、大学は男子学生たちを無処分に。泥酔したニーナの方に非があるという声が学内で広まり、追い詰められたニーナは自殺してしまった。
パーティーに参加せず、ニーナを守ってやることができなかったキャシーは、そのことを悔やんでいる。自分が通っていた大学に失望したキャシーは途中退学し、自宅暮らしのやる気のないフリーターに。夜になると、エッチすることしか頭にないバカな男たちをED(勃起不全)状態に追い込み、ノートにその数を記録する日々を送っている。かなり頭のイカれたヒロインだ。
男たちへの復讐に燃えるキャシーだが、キャシーの敵は男たちだけではない。ニーナが酔い潰れ、男たちに弄ばれるのを笑って見ていた女たちもいた。ニーナがレイプ事件を訴えても、他の女子学生たちは知らんふりをした。医学部のウォーカー学部長(コニー・ブリットン)は女性だったが、キャシーがこの事件のことを再び持ち出しても、取り合おうとはしない。「告発の度に、前途有望な若者の人生を台無しにすることはできない」と大学内で今の立場を得たウォーカー学部長は言う。どうやら学内でのレイプ事件の被害女性はニーナだけではなく、同じような事件がたびたび起きているらしい。若い女性の未来を潰した事件を、同性である女性たちは「なかったこと」にしようとする。ひどく現実味のあるシーンが、復讐サスペンスに生々しさを与えている。
日本でも、東京医科大学などで不正入試が行われてきたことが2018年に発覚し、大きな問題となった。入試の際に不適切な点数調整が行われ、男子受験生に対して女子受験生は長年にわたって不当な扱いを受けていた。また、医師になっても、外科を中心にした病院の多くは男性社会であり、女性医師は職場が限定されるという現実がある。医師という社会からの信頼の高い職業に就く者たちは、同時に社会の深い闇も渡っていくことになる。そんな現実世界に失望したキャシーは復讐鬼となり、彼女自身もまたより深い闇へと堕ちていく。
物語の後半、ニーナを自殺へと追い込んだレイプ事件の主犯格だったアル・モンロー(クリス・ローウェル)は麻酔科医となっており、結婚式を控えていることをキャシーは知る。結婚相手はモデルらしい。絵に描いたようなセレブ人生だ。医大時代の友人らも集まる結婚式の前日、独身最後のお楽しみ・バチェラーパーティーへとキャシーは乗り込む。
七色のド派手なヘアメイクに、安いポルノ映画に出てきそうなナース衣装を身にまとうキャシー。けばけばしくメイクするキャシーの姿は、女性版『ジョーカー』(19)に他ならない。ホアキン・フェニックス演じるアーサーは、格差社会に追い詰められ、哀しい殺人ピエロへと変貌した。キャリー・マリガンが演じるキャシーは、男尊女卑社会に怒りの一撃を加えようとする。
ニーナの未来を踏みにじったことを、過去のやんちゃなイタズラで済ませてしまった男たちが許せない。バッドナースへと変身したキャシーは、性欲だらけの男たちのパーティー会場へと単身で飛び込む。『昭和残侠伝』(65)の高倉健には池部良が付いていたが、キャシーは孤独な闘いを貫く。
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